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麻酔とは

手術の時、痛み刺激から患者さんを守るのが麻酔です。その方法には大きく分けて全身麻酔と区域麻酔があります。区域麻酔にはさらに脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔、末梢神経ブロックなどたくさん種類があります。麻酔といえば、「眠る」「意識がない」といったイメージを持たれる方が多いかもしれません。手術の内容と患者さんの状態を考えて、区域麻酔を用いて痛みをしっかり取ったうえで、意識のある状態で手術をすることもあります。より安全に、かつ手術中からその後までなるべく苦痛の無いことを目標に麻酔方法を組み合わせていきます。

麻酔前の診察

「決まった麻酔」といったワンパターンの麻酔があるわけではありません。手術の内容と患者さんの状態に応じた「オーダーメイド」で麻酔管理を行ないます。
そのために、今までにかかった病気、受けた手術、高血圧、糖尿病などの合併症などをチェックします。また、普段飲んでおられるお薬やサプリメントもチェックします。お薬の種類によっては手術の何日か前から中止していただく必要のあるお薬や当日まで飲み続けていただきたいお薬があります。もし、手術が決まって麻酔科外来に来られることがあれば、お薬手帳の持参をお願いします。
テレビCMでも広く知られるようになりましたが、ジェネリック医薬品といって、同じ効能のお薬が違う名前でたくさん世の中に出るようになり、色や形だけではお薬をしっかり確認できない事があるからです。ちなみに喫煙は「百害あって一利無し」です。当科では禁煙をお願いしています。
さらに詳しくお話を伺いながら呼吸や心臓だけでなく、肝臓、腎臓などの状態もチェックします。このように、手術の内容と全身の状態に応じた麻酔方法を計画していきます。
手術を前にすると様々な疑問や不安が出てくることかと思いますが、遠慮なくお尋ねください。スタッフ一同、できる限りのサポートをできればと考えております。

手術前の飲食について

手術前には飲食について制限をさせていただきます。と言うのは、「全身麻酔」となった場合、意識や痛みもとるのですが、正常な反射も押さえてしまうからです。例えば、胃の中に食べ物が残った状態だと、食べ物が食道を逆流して空気の通り道をふさいでしまったり、食べ物が肺に入って「肺炎」を起こすなど、命に関わることがあるのです。そのため、緊急手術で胃の中を空っぽにする時間的余裕が無い場合には、予定の手術と比べて誤嚥性肺炎などのリスクが上がる事になります。年齢、合併症、手術の内容などにより飲食を控えていただく時間が異なりますので、担当のスタッフにお尋ね下さい。

いざ、手術室へ

病棟での準備が整ったら、看護師さんとともに手術室へ向かいます。最近は、よほど状態が悪くない限り、手術室まで歩いて行くことが多くなりました。膝や腰が悪い方は車いすで向かいます。小さなお子さんはお母さんやお父さんに抱かれて手術室に向かいます。
お名前や手術の内容や場所の確認を手術室に入られるとき、入られた後など何度も行ないます。そして、心電図や血圧計などを付けて全身の状態がわかるように準備を整えていきます。

一般的な全身麻酔

小さなお子さんの場合、吸入麻酔といって麻酔のガスを吸って少しずつ眠っていただきます。点滴が入っている場合は、子供も大人も痛み止めのお薬と眠くなるお薬が点滴から入っていきます。やがて眠られ、意識と痛みが取れた状態となり、人工呼吸のための管がお口に入ります。手術の進行状況に合わせて、全身の状態を保てるようお薬を調整していきます。
手術が終了したら、眠くなるお薬も終了します。声をかけて目を開けていただくまでゆっくりとお待ちします。呼吸がしっかりとご自分の力でできるようになり、目も開けていただけるようになったらお口から管を抜きます。血圧、脈拍、呼吸など全身の状態が落ち着き、痛みがないことを確認して手術室から病棟へ戻ります。
また、大きな手術や合併症のある方は、人工呼吸のまま集中治療室へ移動し、全身の状態を整えていくこともあります。

全身麻酔による主な合併症

1:喉の違和感、声がかすれる、歯牙損傷
 人工呼吸をするために管をお口の中に入れます。そのためこのようなことが生じます。
2:吐き気、嘔吐
 乗り物酔いをしやすい人、以前の手術で吐き気のあった人などは手術の後に吐き気が出やすいといわれています。
3:気管支攣縮・気管支喘息
 手術や喉の管が刺激となって喘息発作が起こることがあります。
4:喉頭けいれん
 声帯が急に閉じてしまい呼吸が出来なくなってしまう状態です。
5:薬物アレルギー
 あらかじめ抗生物質などでわかっているものがあれば、それを使わないようにします。ただ、どんなお薬でもアレルギーのリスクは0ではありません。アレルギーの症状が診られたら、直ちに治療を開始します。
6:低血圧
 麻酔のお薬が入ると、血管が広がり、血圧が下がりやすくなります。
7:悪性高熱症
 麻酔のお薬が引き金となって発症する病気です。悪性高熱症となる確率自体は低いのですが、一旦発症すると死亡率が高く、注意しなくてはいけない病気の一つです。早期発見、早期治療により救命率は向上していますが、救命できたとしても腎臓に障害が残るなど重篤な病気です。遺伝子の関与も示唆されており、ご家族にこのような方がおられれば、事前に申し出てください。

硬膜外麻酔

背骨の中には脊髄の神経が走っています。脊髄の外側に硬膜という膜があります。その外側に管を入れて麻酔をするので、硬膜外麻酔と呼びます。帝王切開やお腹の手術など首から下の手術でこの麻酔をします。手術中の痛みを取るのはもちろんですが、手術の後も管を入れてお部屋に戻っていただきます。その管から痛み止めのお薬がずっと流れていますので、手術のあとも痛みが和らげることが出来ます。動いたときの痛みによく効きますので、手術後の動き始めが楽になります。

<硬膜外麻酔の管を入れる手順>

お部屋に入られたら、心電図、血圧計などの準備をします。準備が整ったら、横向けになっていただきます。それから、膝を抱えておへそを見るような形に丸くなっていただきます。骨と骨の間が広がるので、針を進めやすくなります。

姿勢が整ったところで、背中を消毒します。局所麻酔の注射をしてから管をいれるための針をゆっくりと、慎重に神経を傷つけないように進めていきます。しびれや違和感があれば遠慮無くお伝え下さい。一つ一つ確認しながら、少しでも安全にできるよう心掛けております。

<硬膜外麻酔に伴う合併症>

硬膜外麻酔は手術のあとの痛みを和らげるという良い点を持っています。安全には十分配慮しておりますが、合併症もあります。

1:血圧低下
2:頭痛(硬膜穿刺後痛)
 くも膜下麻酔の時に見られる頭痛と機序は同じです。しばらく安静にしているとおさまって来ることが多いですが、時に長引くことがあります。
3:局所麻酔中毒
4:神経障害

神経に針が刺さったり、管が神経を圧迫することで起こることがあります。また、「硬膜外腔」に管を入れるときなどに生じた傷から出血が続くと、神経を圧迫して麻痺が生じることがあります。時に神経の圧迫をとるための手術が必要な場合もあります。頻度は低いですが、早期発見、早期治療ができるよう努めております。

脊髄くも膜下麻酔

区域麻酔の一つに分類されます。世間では下半身麻酔、腰椎麻酔などとして知られています。背骨の中にある「脊髄くも膜下腔」というところに薬液を入れて痛みを取ります。
お部屋に入られて、血圧計、心電図などを付けて準備が整ったら横向けになっていただきます。骨と骨の間から針を進めます。
消毒をした後、背骨と背骨の間から針を進めます。このとき、膝を抱えておへそを見るような形に丸くなっていただくのがポイントです。背骨と背骨の間が広がり、針を進めやすくなります。違和感や電気が走るような感じがあれば、すぐにお伝え下さい。声をかけ一つ一つ確認しながら、ゆっくり慎重に針を進めていきます。「脊髄くも膜下腔」に針が到達したら、薬液が入ります。お尻や足が暖かくなったり、しびれてきます。手術の刺激に対して十分な程度と広がりがあるかを確認した後、手術が始まります。

<脊髄くも膜下麻酔の合併症>

1:手術後の頭痛
脊髄くも膜下麻酔で使う針はとても細い針なのですが、「くも膜」に穴ができます。自然に閉じる程度のものですが、しばらく、手術の後、座ったり、起き上がると頭痛を生じる事があります。中には1週間程度長引く方や、程度の強い方もおられますが、安静にしていると頭痛が軽減する事が多く、2~3日で治まる事が多いです。
2:血圧、脈拍の低下
 点滴やお薬で対応します。
3:一過性の神経障害
 足やお尻の一部にしびれが残ったり、感覚が鈍る、痛みが残るといったことがまれにあります。

末梢神経ブロック

足や手の手術に「末梢神経ブロック」をすることがあります。超音波の装置を使って、神経の近くまで針を進め神経の周りに局所麻酔のお薬を注入します。また、血液検査の異常やお薬の関係で硬膜外麻酔を出来ない患者さんがお腹の手術をする場合にも、お腹の痛みを和らげるために「末梢神経ブロック」をすることがあります。

<末梢神経ブロックの合併症>

超音波装置を使うことで合併症を減らすことが出来るようになりましたが、0ではありません。

1:局所麻酔中毒
局所麻酔薬の血中濃度が急激に上がる事で起こりえます。濃度が非常に高くなると痙攣、意識の消失、血圧の低下などが起こります。万一に備えての準備は常にしております。
2:神経障害
超音波装置を使うことで神経と針が見えるようになりましたが、見えにくい場合も有ります。針を進めたり、お薬を入れるときにしびれや知覚異常が無いか確認しながら安全を心がけています。

手術後の痛みを和らげるために

手術後の痛みを和らげるために、いくつかの方法と様々な薬剤があります。大きな手術では点滴のところから持続的に痛みを取るお薬を流しながら、痛みが強くなったときにご自分で痛みを取るお薬を追加できる機械を使っていただくこともあります。硬膜外麻酔を併用した場合は、手術の後も管からお薬が流れ続け、痛みが強くなったときにご自分で調整できる装置をつけてお部屋に戻っていただいております。少しでも痛みのない状態で過ごしていただけるよう、日々努力しております。