島根大学医学部附属病院
白うさぎ
 診療科案内:泌尿器科

▼泌尿器科の専門分野
 概要及び対象疾患と診療内容
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泌尿器科の概要及び対象疾患と診療内容

 

  泌尿器科は腹部の後ろ側に存在する臓器(後腹膜臓器とよばれ腎臓、副腎、尿管、膀胱などがこれに相当します)や、尿道および男子生殖器(陰茎、前立腺、精嚢、精巣、精巣上体)に生じる病気を取り扱う外科です。特にこれら臓器に生じる腫瘍の診断と治療が主な泌尿器科の診療対象ですが、それ以外にも腎臓の働きが悪化した末期腎不全に対する血液浄化治療や腎移植にも積極的に取り組んでおります。尿路結石症(腎結石、尿管結石あるいは膀胱結石)や尿路感染症(腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎など)、神経因性膀胱、尿路奇形、男子不妊症、勃起障害の診断と治療も泌尿器科で行っています。最近では、尿意切迫感や尿漏れ、骨盤臓器脱(膀胱脱、子宮脱)など女性患者さんに多いあるいは特有な症状に対応する目的で「女性泌尿器科外来」も開設し診療を行っています。

 

 

1)尿路・性器腫瘍


副腎、腎、腎盂、尿管、膀胱、前立腺、尿道、陰茎、精巣上体と精巣の良性および悪性腫瘍の診断と治療を行っています。血尿、腰部あるいは下腹部の痛み、排尿障害などが契機となって泌尿器科腫瘍が発見されることが多いのですが、他の領域の腫瘍と同様に早期発見、早期治療が予後の改善には重要です。


a)前立腺癌
永久挿入密封小線源治療 前立腺は直腸の腹側(前方)に位置するため経直腸的超音波検査のよい適応で、より正確な病態診断が可能です。当科では近年急増している前立腺癌に対して、血清PSA値(前立腺癌の血液マーカーとして用いられます)の測定や経直腸的超音波検査に超音波カラードプラ法(血流の程度を評価します)あるいはエラストグラフィー(組織の硬さを評価します)を併用することで、早期癌の発見とより正確な腫瘍の局在診断に努めています。また、断層撮影MRIやMRスペクトロスコピー(MRS)を用いて詳細な前立腺内の癌の存在部位や、癌の活動状態を把握し、患者さんに最善の情報を提供しています。前立腺癌の確定診断あるいは治療効果判定のためには前立腺針生検が必要です。当科では超音波ガイド下の経直腸的針生検という方法で行っていますが、これには特殊な処置は必要なく(希望の患者さんには局所麻酔を行います)、年間約300例に施行しています。一方、前立腺癌が疑われながら通常の針生検で癌が検出されない場合には入院の上、腰椎麻酔下に経会陰的な方法で約20-50ヵ所の生検を行い(saturation biopsyと呼ばれています)、これも早期癌の発見に寄与しています。高齢者が多い島根県では前立腺癌は増加傾向にありますが、当科では積極的に前立腺癌に対する啓蒙活動とPSA検診を地域に出向いて行っています。無症状でも60歳以上の男性では血清PSA(前立腺特異抗原)を測定し、異常値であれば前述の精密検査を行った結果、早期癌で発見される前立腺癌の割合が増加しました。限局性前立腺癌に対する治療として、1996年4月から2008年3月までに根治的前立腺全摘除術を385症例に施行しており、最近では従来の恥骨後式アプローチに加え、リンパ節郭清の必要性がない場合にはより低侵襲で合併症が少ない会陰式アプローチを採用しています(図1)。

当科では2000年12月よりこの術式を開始し2008年3月までに201例に行っています。この数は我が国で最多であり治療成績も良好です。また、2005年10月より放射線科との共同でヨウ素125を用いた永久挿入密封小線源治療(ブラキテラピー)を開始しましたが(図2)、この治療が行えるのは山陰地方では当科だけです。現在、各施設からの紹介患者さんを積極的に受け入れています。このように、当科は前立腺癌患者さん全ての要望に応えることができる、山陰地方で唯一の泌尿器科です(図3)。一方、従来より内分泌療法抵抗性前立腺癌は有効な治療法が確立されていない進行期の前立腺癌と考えられていましたが、米国で初めて報告された新規抗癌化学療法を全国に先駆けて導入し、その安全性と優れた治療効果を確認しました。その治療成績は国内外の学会やシンポジウムで報告しており、海外の一流雑誌にもたびたび掲載され評価されています。

 

       前立腺癌治療法の年次推移

図3 限局性前立腺癌に対する治療法の年次推移を示しています。当科では2005年よりヨウ素125を用いた永久挿入密封小線源治療(ブラキテラピー)を導入しました。

 


b)膀胱癌
 膀胱癌で最も多い症状は、痛みを伴わない血尿です。たった1度だけの血尿でも、泌尿器科での精密検査が必要です。また、難治性膀胱炎の精密検査で膀胱癌が見つかることもあります。膀胱癌には、癌が膀胱の粘膜にとどまる表在性膀胱癌と、膀胱粘膜から膀胱外方向へ発育する浸潤性膀胱癌の2つのタイプがあります(図4)。前者は内視鏡手術が可能ですが、後者の場合、多くで膀胱全摘除術が必要となり尿を体外に誘導するための尿路変更術を同時に行う必要があります。当科では、表在性膀胱癌であれば内視鏡的切除術による膀胱温存を、内視鏡的切除術で根治が得られない浸潤性膀胱癌に対しても可能な限り膀胱機能を損なわない方法を選択しており、膀胱全摘除術後の尿路再建として行っている腸管を利用した自然排尿型新膀胱もその一つです。当科では1996年11月より回腸を用いた自排尿型新膀胱造設術を開始し2008年3月までに115例に施行しました。これは単一施設としては全国でもトップクラスの実績で、従来の回腸導管と比較した生活の質調査でも、患者さんの満足度が非常に高いことがわかりました(図5)。また自排尿型新膀胱造設術を受けられた患者さんの生活の質と同年代の国民標準値の間にはほとんど差がなく、この手術が生活の質にほとんど影響を及ぼさないことが証明されました。その結果は海外の一流雑誌で報告しています。また、進行期の膀胱癌や再発症例に対しては、より安全で効果的な薬剤の選択に心がけた化学療法を行っており、また予後の改善に期待すべく新規抗癌剤の積極的な導入にも取り組んでいます(図6)。

膀胱癌 膀胱癌       

 

           新膀胱ち回腸導管を行った患者さんの術後の生活の質の比較

 

図5 膀胱全摘除術後の尿路再建として新膀胱と回腸導管を行った患者さんの術後の生活の質を比較しました。 数値が低いほど生活の質が良いことを示していますが、 すべての項目において、新膀胱のほうが患者さんの満足度が高いことがわかります。

 


c)腎臓癌
 近年の超音波検査の発達により、腎癌は腫瘍径が小さな早期癌で発見されることが多くなってきました。腎癌の特徴は、薬剤に対する感受性がきわめて低いことです。ですから、可能な限り手術で完全に腫瘍を摘出する事が非常に重要となってきます。当科では、小さな腎癌に対しては腎機能の温存と制癌(癌治療)の両側面を考慮した上で、腎部分切除術を計画施行しています。進行期あるいは転移を有する症例でも積極的な外科手術を行い、場合によっては下大静脈の合併切除と術後の補助療法(インターフェロン、インターロイキンII)を組み合わせることで予後の改善を図っています。また、早期の腎癌および腎盂尿管癌に対する腎摘除には鏡視下手術を採用し、術後疼痛の軽減、早期退院、術後の生活の質の向上にも努めています。

 

 


d)前立腺肥大症
 前立腺肥大症とは、良性の腫大した前立腺により膀胱の出口部・尿道が圧迫され、排尿困難、尿閉、頻尿や尿失禁を呈する疾患です。薬物療法が第一選択ですが、これが無効であれば生活の質が著しく低下します。このような症例には、経尿道的前立腺切除術が一般的ですが、出血など侵襲が大きいため手術療法を躊躇される方が少なくありません。当科では薬物療法が無効、しかし内視鏡手術が必ずしも適応でない前立腺肥大症に対して、A型ボツリヌス毒素(ボトックス)前立腺内注入療法を2006年12月から開始いたしました。ボトックスは眼瞼・片側顔面痙攣、痙性斜頚の治療薬としては保険承認されています。泌尿器科領域では、排尿に関わる筋肉の過敏性を抑え、前立腺の大きさの減少や前立腺部の尿道の弛緩作用を有することが最近分かってきました。現在まで26症例に行い、ほとんどの症例で自覚的に明らかな排尿症状の改善を認め、合併症もまったく経験していません。前立腺のエラストグラフィーを用いた評価では、この排尿症状の改善はボトックス注入により前立腺が“柔らかくなる”ためであることがわかりました(図7)。今後、経尿道的前立腺切除術にかわる前立腺肥大症に対する安全で有効な低侵襲治療としてのボトックス前立腺内注入療法の更なる有用性が期待されます。

 

ボトックス前立腺内注入療法

 

図7 ボトックス前立腺内注入療法の効果を前立腺エラストグラフィーを用いて評価しました。青色で示されている部分は”堅い”前立腺組織です。ボトックス注入療法後には前立腺全体で堅さが減少している(青色の部分が少なくなっている)ことがわかります。

 

 

 

 

 

 

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