心臓血管外科
診療内容
当科では、心臓外科、大動脈外科、末梢血管外科の診療を行なっております。
私どもの診療方針は、当たり前ですが、一人一人の患者さんの個性・特徴に合わせて、かつ医学的証拠(エビデンス)に基づいて、治療(手術)するということであります。高度な先端医療の分野では、ともすればエビデンスを伴わない流行(特に長期成績に関する)に流されがちですが、患者さんにメリットがあるかどうかの原点で常に判断するように努めております。
科長(織田)は、日本における心臓病治療の先頭を走る施設の一つである、社会保険小倉記念病院で約2000例の心臓血管外科の手術経験を積み、その後、術者として約1000例の手術経験を積んでおり、経験と実績は十分であります。島根県は日本で一番高齢者の占める割合の多い県でありますので、高齢者に対してより低侵襲な手術法の導入に力を注ぐつもりでおります。各分野の手術方針を以下に説明します。
冠動脈バイパス術
1)高齢者やハイリスク例:人工心肺を用いずに心拍動下に行ういわゆるオフポンプ(off-pump CABG; OPCAB)や、さらに10cm弱の小さな切開で手術を行うミドキャブ(MIDCAB; Minimally invasive direct coronary artery bypass)など低侵襲な手術を積極的に導入し、高齢者やハイリスク例に対して行っております。80歳台の手術はいまや日常的であり、ごく最近も90歳の元気な不安定狭心症の女性をオフポンプにて2本バイパスを行い、翌日にはICUを退出するまで回復し、高齢者に対する本手術の安全性を再確認致しました。
小切開で可能な低侵襲冠動脈バイパス術(MIDCAB)

2)比較的若年で糖尿病の合併などにより、冠動脈末梢までびまん性に動脈硬化が進展している重症例には心停止下に内膜摘除術などのテクニックを用いて対応しております。この方法を用いますと、どんな重症例でも手術可能であります。また動脈グラフトを用いた完全血行再建に努めております。
重症例に対する内膜摘除術を用いた冠動脈バイパス術

弁膜症手術
外科医の恣意性を排し、少しでもエビデンスに基づく手術を行うため、大動脈、僧帽弁ともACC/AHAのガイドライン(www.acc.org; www.americanheart.org )に沿い、手術適応、術式を決定しております。
大動脈弁狭窄症:近年、80歳以上の高齢者の大動脈弁狭窄症例が増加しております。高齢ではあっても重症大動脈弁狭窄症の予後は極めて不良であるため、お元気な高齢者に対して全身状態を精査の上積極的に生体弁による人工弁置換術を行っております。その成績は極めて良好であり、他の年齢層との比較で差を認めておりません。
僧帽弁閉鎖不全症:この弁膜症に対しては人工弁置換を回避して弁の形成(再建)に努力しております。後尖病変に対しましては、90%前後の形成成功率を達成できておりますが、前尖病変に対しては、未だ不十分な点があり今後新しい術式を取り入れて成功率を高める所存であります。
現在、当科では、大動脈弁、僧房弁とも70歳以上の高齢者は、生体弁(牛心のう膜で作成した弁やブタの弁)を植え込み、それより若い方は機械弁(パイロライトカーボン製)を植え込むようにしております。これにより再度の心臓手術を回避することができ、また同時に高齢者に多い脳梗塞や脳出血に悪影響を及ぼすワーファリンの服用も回避することができます。また機械弁も性能が向上しておりますので、耐久性の面での心配はありません。
生体弁

機械弁

また、慢性腎不全により、血液透析治療(HD)を受けておられる患者さんにおいては、大動脈弁や僧房弁の石灰化(MAC)が高度に進行した弁膜症を合併される場合があります。当科では、透析患者さんの弁膜症手術の経験も豊富で成績も良好です。
胸部大動脈瘤手術
急性大動脈解離:この疾患のスタンフォードA型は救命のために超急性期治療を必要とする代表的疾患の一つであります。当科では、島根県下の急性大動脈解離などの緊急手術に対応するため、心臓血管外科救急ホットラインを創設して24時間対応しております。この疾患に対する手術においても術前に重篤な合併症を併発していない症例では脳合併症もなく、良好な成績を上げております。
ホットライン案内

手術方針は、上行大動脈や弓部大動脈に内膜亀裂(エントリー)が見つかった場合は、それぞれ上行大動脈、上行弓部大動脈を人工血管で置換するようにしております。
胸部大動脈瘤:以前は、脳合併症の発生が危惧された全弓部置換術も最近その発生は皆無であり、良好な成績をあげております。今後は、高齢に加えて他臓器の重篤な合併症を有する例にはステントグラフトの応用に努めていく所存であります。
弓部大動脈瘤に用いられる人工血管

胸腹部大動脈瘤:この大動脈瘤は、胸部から腹部にかけて広い範囲に大動脈瘤が進展しているタイプで、現在でもその治療成績はそれほど良好ではなく、特に対麻痺(両下肢の麻痺)を合併することもあります。当院では、真性大動脈瘤やスタンフォードB型大動脈解離でその後大動脈が拡張し瘤化した症例で積極的に手術を行なっており、対麻痺の発生もなく成績も良好です。このタイプの場合、腹部の重要臓器への動脈が複数分枝しており、それらも含め特殊な人工血管を用いて再建しております。
胸腹部大動脈瘤に用いられる人工血管

不整脈手術(肺静脈隔離術)
慢性あるいは発作性心房細動に対する治療法のひとつである肺静脈隔離術は通常人工心肺装置を用いて行なわれますが、当院では低侵襲な手術をめざして、これを用いずに(オフポンプで)行なっております。
腹部大動脈瘤手術
この病気は、特に症状がないため、破裂により突然倒れて救急車で病院に運ばれて初めて診断されるか、他の病気で受けた検査で偶然見つかることがほとんどですが、破裂した場合の死亡率は極めて高いため、破裂する前に診断・治療を受ける事が大事です。
腹部大動脈瘤の特徴

腹部大動脈瘤破裂例の死亡率

この病気になりやすいのは、高齢者、男性、喫煙歴のある方です。気になる方は、当科を受診することをお勧めします。数分で終わるCT検査を外来で受けて頂くだけで正確に診断できます。
腹部大動脈瘤の3D-CT画像

当院では、大動脈瘤の径が5cm以上の方、急速に大動脈瘤が大きくなっている方(1年で5mm以上)は手術が勧められます。
当院の手術成績は、80歳以上の高齢者が主体であるにも関わらず、最近3年間の非破裂例に対する手術の病院死亡率はゼロであり良好な成績でありました。最近保険導入が認められたステントグラフト治療を当院に導入するため現在準備中であります。この治療は、重篤な合併症を有する高齢者に対する手術の安全性向上に寄与するものと期待しております。
腹部大動脈瘤の治療のながれ

閉塞性動脈硬化症に対する手術
この分野においても、TASCIIやACC/AHAの新しいガイドラインに沿って、手術適応、術式の決定を行っており、また放射線科の血管内治療グループと共同して、症例毎に適切な治療を決定しております。膝下の末梢動脈へのバイパスは一般に難易度の高い手術とされておりますが、当科では冠動脈バイパス術の技術を応用して実施しており、これまで施行したバイパスの全例の開存を認めております。また、現在難治性の重症下肢虚血に対する血管再生療法を準備中であります。
下肢静脈瘤、深部静脈血栓症に対する治療
下肢の静脈瘤は従来のストリッピング手術の他に、硬化療法、高位結紮術も行なっております。
2007年度手術実績













