| 3-C-2-2 | 第17回医療情報学連合大会 17th JCMI(NOV,.1997) |
○大星 直樹1 , 黒田
圭2 , 鎌江 伊三夫1
, 高橋 隆3
神戸大学都市安全研究センター都市安全医学研究室1
, 京都大学大学院人間・環境学研究科2 ,
京大病院医療情報部3
The Triage Simulation for Optimal Allocation
of Medical Personnel in Emergency Response
○Naoki Ohboshi1 , Kei
Kuroda2 , Isao Kamae1
, Takash Takahashi3
Health Informatics and Sciences, Research Center for Urban Safety and Security, Kobe Univ.(stern@med.kobe-u.ac.jp)1 , Graduate school of Human and Environment Studies, Kyoto Univ.2 , Dept. of Medical Informatics, Kyoto Univ. Hospital3
Keywords: triage, simulation, Great Hanshin Awaji Earthquake
阪神淡路大震災や東京地下鉄サリン事件以降、多くの病院で大災害、大事故に備えて救急対応マニュアルが作成されている。1,2)大災害、大事故時には病院に大量の負傷者が殺到するがこれらの負傷者に対して、まず第一に行われなければならないのはトリアージである。ほとんどの災害救急マニュアルにはトリアージを行うようにとの指示はあるが、具体的にどれだけの医療スタッフを配置すればどれだけの時間でどれだけの負傷者の振り分けを行えるかという記述が多くのマニュアルで欠けている。本稿は、トリアージをモデル化し、阪神淡路大震災のデータを参考にした数値シミュレーションの結果からトリアージの所要時間とトリアージに要するスタッフの配置について考察した。3,4,5,6,7)
トリアージとは大災害時などに大量に発生する負傷者を迅速に救うため重症度と治療の優先度をつける負傷者の振り分け行為である。8)負傷者は、最優先処置群(赤)、非緊急治療群(黄)、軽処置群(緑)、そして死亡および不処置群(黒)(それぞれが、P-1、P-2、P-3、P-4と呼ばれる)の4段階にクラス分けされる。著者らは、文献[6,7]において比較的判定の簡単な保留と死亡の判定を行うトリアージと熟練と経験を要する難しい段階でのトリアージ(最優先処置群か非緊急治療群かの判定)という2段階でのトリアージモデルを提案した。(図-1)このモデルでは、まず軽処置群と死亡および不処置群の判定とまだ最優先処置群か非緊急治療群か判定のつかないグループの振り分けを行うトリアージを第1コンポーネントとし(これをトリアージ1と呼ぶ)、最優先処置群か非緊急治療群かの判定を行うトリアージを第2コンポーネントとする(これをトリアージ2と呼ぶ)のを基本とする。また、このモデルは負傷者の待ち数の増加に応じて動的にトリアージ1をさらに2つのコンポーネントに並列化するモデルである。トリアージ1では、P-3、P-4の、そしてトリアージ2ではP-1、P-2の判定がつけられる。トリアージ1には非外科系医師が,
トリアージ2には外科の診療経験のある医師があたる。また、医師の心理的負担を軽減するため、それぞれの段階で医師を2人ずつ配置するモデルである。したがって、トリアージ1を並列化しないときには、医師が4人、トリアージ1を並列化したときには、医師が6人必要になる。我々は、このモデルと阪神淡路大震災時のデータを参考にシミュレーションを行った。このシミュレーションからトリアージに要する医療スタッフの数とトリアージに要する時間を得たので、その結果をもとに災害などの緊急時の病院における医師の配置について考察する。
本稿ではシミュレーションの条件が次のようなときについて考える。患者の到着を近似する分布としてポアソン分布を用い、平均して毎時30人到着すると仮定する。トリアージ1、トリアージ2に要する時間は次数2のアーラン分布で近似し、それぞれ平均3分とする。また、重症者率を0.2、すなわち到着する負傷者のうち最優先処置群か非緊急治療群かと判定されるものが全体の20%である場合を考える。50人の負傷者の振り分け判定に要する時間をここでは計算した。
大災害時においては、病院に被害が及んだり、医療従事者が被災者となりうる。どれだけの医療スタッフが病院に出勤可能であるかという割合は、多くの機能が低下する被災地内の病院におけるひとつの診療能力評価の指標となりうる。ここでは医師の出勤率は、阪神淡路大震災のデータをもとに60%から90%とした。9,10,11,12,13)
出勤率からその病院においてどれだけの医師が災害時等にどれだけ確保でき、そのうちどれだけの医師をトリアージ要員に割けるかをあらかじめ試算することができる。トリアージを担当する医師の数が決定すればトリアージに要する時間(医師がトリアージにあたっている時間)を決定することができる。
表-1-1、および1-2に全体の医師数が50人(外科系15人、非外科系35人とした)の病院におけるトリアージに当たる医師数、負傷者の処置にあたる医師数の内訳と50人の負傷者に対してトリアージに要する時間を示す。この表からトリアージに医師があたる時間は、トリアージ1を並列化する、すなわち非外科系の医師を2人増やすことによって252.78分から126.43分に減ずることができることがわかる。
このような情報は災害対応マニュアル作成の参考資料となりうる。このようなシミュレーションは、災害時の的確な医療スタッフの配置を行うために有益である。
以上述べてきた配置表を緊急時に活用するためには、災害等発生の初期の段階で病院の対策本部がいち早く医療従事者の出勤情報を得ること、出勤情報に基づいて的確な指示が出せるような配置提示システムを用意すること、各々の医師が訓練等でどのような流れでトリアージを行うか平常時から理解しておくことが肝要である。もちろん対策本部のスタッフは、訓練や平常時での診療行為を通じてそれぞれの医師がどれくらいの時間で負傷者の判定を行えるかを把握しておく必要があり、医師もできるだけ短時間に救急患者の状態の判定を行えるよう技術の向上に努める必要がある。
説明:(文献 [6,7])
説明:(病院全体の医師数:50人、負傷者の重症率0.2、到着率30人/60分)
説明:(病院全体の医師数:50人、負傷者の重症率0.2、到着率30人/60分)
[1] 坪井、大塚監修:災害医療ガイドブック、医学書院、Oct. 1996
[2] 厚生省健康政策局指導監修:21世紀の災害医療体制、へるす出版、1996
[3] D.A. Marca and C.L. McGowan : IDEF0/SADT Business Process and Enterprise
Modeling, Electic Solution, 1993
[4] H.Masui, M. Nomoto and Y. Kambayashi : Representation of Active Rules
in Cooperative Work Environment, Proc. FGCS'94 Workshop on Heterogeneous
Cooperative Knowledge-Bases, pp.213-27, Dec.1994
[5] 大星、増井、上林、高橋:協調作業のための動的ワークフロー管理と病院診療モデルへの応用、電気学会論文誌
C、Vol.116-C, No.6, pp.635-46, June.1996
[6] 大星、高橋:動的管理を考慮したワークフローモデルによるトリアージシミュレーション、第16回医療情報学連合大会論文集、Nov.
1996
[7] 大星、鎌江、高橋:ワークフローとして捉えたトリアージの定量的分析の試み、第27回安全工学シンポジウム講演予稿集、pp.235-238,
1997
[8] 青野:災害被災者のトリアージ、日本医師会雑誌、Vol.110, No.6, Sep.1993
[9] 兵庫県医師会:震災と医療-阪神淡路大震災の記録、1996
[10] 神鋼病院:阪神大震災時 神鋼病院対応の記録、July. 1995
[11] 神戸市立中央市民病院:大震災を経験した市民病院からの報告、July. 1995
[12] 神戸市医師会:阪神淡路大震災記録集、Sep. 1995
[13] 佐谷:被災地での救急医療(市立芦屋病院)、救急医学 Vol.19, No.12,
pp.45-49, Oct.1995