1-I-5-2 第17回医療情報学連合大会 17th JCMI(NOV,.1997)

腸管出血性大腸菌O157による食中毒の潜伏期の推定

格和 勝利 , ○小池 大介 , 緒方 正名 , 近藤 芳朗
川崎医療福祉大学医療技術学部医療情報学科 , 川崎医療福祉大学医療福祉学部医療福祉学科

The incubation period of the food poisoning by Escherichia Coli O157

Katsutoshi Kakuwa , ○Daisuke Koike , Masana Ogata , Yoshiro Kondo

Department of Medical Infomatics, Kawasaki University of Medical Welfare , Department of Medical Social Work, Kawasaki University of Medical Welfare


Abstract:Incubation periods, the exposed points and dispersion factors of the food poisoning by Enterohemorrhagic Escherichia Coli O157 which had been generated in Okayama Pref. last year were estimated by statistical and numerical analysis. The our method is applicable to many acute infectious disease and statistical parameters can be estimated under assumption of lognormal distribution with the least squares method. The validity of lognormal distribution for the infectious desease was discussed theoretically.

Keywords: incubation periods, Enterohemorrhagic Escherichia Coli O157, noncentral lognormal distribution, least squares method, infectious disease



1. はじめに

 昨年、岡山県邑久町および新見市の小学校で発生した腸管出血性大腸菌O157による食中毒患者発症について、患者発症の頻度分布から統計解析によって、平均潜伏期、暴露感染日、分散因子などを推定した1,2)。今年も岡山市の労災病院でO157の食中毒の大量発症があった。今回は、これらの食中毒について、計算方法を少し一般化して解析を行ったので報告する。用いた方法は感染症一般に適用できるもので、患者発症分布を3-パラメータの対数正規分布(非心対数正規分布)と仮定し、最小2乗法を用いて、これらのパラメータを数値解析によって厳密に推定するものである。

2. 細菌性食中毒の潜伏期間と対数正規分布

 急性伝染病、細菌性食中毒などでは患者の発症分布が対数正規分布をなすことが古くから知られている。患者発症分布の原点が必ずしも暴露時点に一致しない場合もあるが、細菌性食中毒の場合にはこの両者は一致する。したがって、細菌性食中毒の場合には、患者発症分布の原点を推定することと、暴露時点を推定することは等価となる。本研究ではこの患者発症分布を対数正規分布と仮定してパラメータを推定する。

3. 細菌性食中毒の潜伏期間が対数正規分布を示す1つの理由

 細菌性食中毒の潜伏期間が対数正規分布を示す1つの理由について述べる。食中毒を起す部位で時刻t=0(これを暴露時点とする)での食中毒を起す細菌の濃度C C0とすると。時刻tでの細菌の濃度C C = C0exp(kt)である。ここに、k は細菌の正味の増殖率を表わす。食中毒は細菌の濃度がある一定の濃度C*に達した時点で発症するものとすれば、細菌の濃度がC*になる時刻l が潜伏期間となる。したがって、l = k -1ln(C*/C0)となる。細菌の増殖率k は単位時間あたりに増殖する確率でもあるので、多数の要因1,2,・・・,nは相乗的に影響を及ぼす。この結果、k は定まる。すなわち、k=k1,k2,・・・,knあるいは となる。確率k=k1,k2,・・・,knの大きさが個体差のためランダムに変動するものとすれば中心極限定理によりln k は正規分布をなす。したがって、ln l も正規分布をなす。すなわち、潜伏期間l は対数正規分布をなす。

4. 暴露感染日および平均潜伏期の推定方法

 暴露日は初発患者の発症時刻に近いとはいえ、未知なので患者発症分布を非心対数正規分布とする、日時x までの累積相対度数F (x)は


で与えられる。ここに、c ,m 2はそれぞれ、暴露感染日、母平均、母分散を表す。変数変換

を施すと


となる。
 患者発症日時xi(i=1,2,・・・,s)までの発症者累積相対度数をfiとし、tiを関係式fi=P(ti)(i=1,2,・・・,s)で定義し、残差σi=ti(xi)の平方和S を最小にするべくパラメータ c ,m 2を定める。これが著者達の最小2乗法である。本研究での残差平方和Sは次式

で与えられる。ここに、i1,i2は1<i1<i2<s を満たす。患者発症の初期と終期における患者発症頻度は累積相対度数に与える誤差が大きくこれらの影響を取り除くために、必ずしもi1=1,i2=s-1とはしない。

5. 結果と考察

 最小2乗法による計算結果を表1および図1〜4にまとめた。表1における方法T,Uの違いは残差平方和の取り方の違いによるもので、方法Tではi1=1,i2=s-1としiについてはすべての和をとるもので1,2)、方法Uではi1=1,i2=s-1としiについては患者の発症しなかった日の和を除くものである。表1はこうして得た推定値の一覧表であり、図1〜4は最小2乗法で得た推定値に基づいて、描いたグラフである。図1,3は対数正規確率紙に対数正規分布関数を描いたもので、図2,4は患者発症度数分布表に対数正規密度関数を描いたものである。
 これらの結果によると、いずれの図も対数正規分布の仮定のた正しさが確認される。このようにして、感染した日が特定できるが、これには解析方法により1日程度の誤差のあることもわかる。以上は単一暴露の仮定のもとの解析であるが、複数暴露、連続暴露の場合の解析は今後の問題である。


図表

図1、発症日時と累積百分率(邑久町U)


図2、日別患者発生数と最小2乗法で求めた曲線(邑久町U)


図3、発症日時と累積百分率(新見市U)


図4、日別患者発生数と最小2乗法で求めた曲線(新見市U)


表1、暴露感染日・平均潜伏期・分散因子


参考文献

1 格和勝利他:川崎医療福祉学会誌 6(1996)381-387
2 格和勝利他:川崎医療福祉学会誌 7(1997)101-106(掲載予定)



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