島根大学医学部眼科学講座
千原悦夫先生がProgress in Retinal Eye Researchの総説に写真付きで紹介されました
2022年2月18日 千原悦夫先生がProgress in Retinal Eye Researchの総説に写真付きで紹介されました。
当科の臨床教授である千原悦夫先生が糖尿病網膜症研究で重要な仕事をした１０人の研究者の一人として，
総説論文の中で写真とインタビューコメント付で紹介されました1)。
総説が掲載されたProgress in Retinal and Eye Researchはインパクトファクターが21点の雑誌です。
掲載論文のラストオーサーであるミシガン大学のThomas Gardner教授は糖尿病網膜症／黄斑症の研究・治療に関する世界的な権威です。
論文の作成に当たって，千原先生はGardner教授からZoomによるインタビューを受けられたそうですが，千原先生とGardner教授には特別な関係は無く，
純粋に研究内容の重要さが評価されての選出でした。
千原先生は，京都大学におられたときの一連の動物実験で，網膜内の蛋白合成が主として網膜神経節細胞内で行われること，
高血糖状態では細小血管異常が出現する前から神経内の蛋白合成の低下と網膜神経節細胞内の早い軸索輸送，
遅い軸索輸送の両者が障害されること，を示されました２）〜４）。
これらの知見は，後に広く理解されるようになった糖尿病で全身に見られる蛋白異化（骨格筋の消耗と血漿アミノ酸濃度の上昇）と言った現象の理解にもつながっています。
さらに，千原先生は，レッドフリー眼底観察や走査型レーザーポラリメトリーなどの手法を用いて，基礎研究で得られた知見が，
実際の糖尿病患者の眼底で神経線維束欠損／神経線維層厚の減少といった形で現れていることを示されました５）〜６）。
今回の総説のテーマとは外れますが，千原先生が最も早期に提唱され取り組んでこられた近視による軸索障害への影響についても，
現在では，世界的に主要な緑内障研究テーマとなっています。先生の慧眼と実行力にはただただ感服いたします。
ちなみに，総説では私がオクラホマ留学中の共著論文7)も引用されていました。地道な研究の積み重ねが重要だと感じます。
谷戸正樹
1) Levine SR, Sapieha P, Dutta A, Sun JO, Gardner TW. It is time for a moonshot to find “Cures” for diabetic retinal disease. Prog Ret Eye Res in press.
2) Chihara, E., 1981. Impairment of protein synthesis in the retinal tissue in diabetic rabbits: secondary reduction of fast axonal transport. J. Neurochem. 37 (1), 247–250.
3) Chihara, E., Sakugawa, M., Entani, S., 1982. Reduced protein synthesis in diabetic retina and secondary reduction of slow axonal transport. Brain Res. 250 (2), 363–366.
4) Tsukada, T., Chihara, E., 1986. Changes in components of fast axonally transported proteins in the optic nerves of diabetic rabbits. Investigat. Ophthalmol. Vis. Sci. 27 (7), 1115–1122.
5) Chihara, E., Matsuoka, T., Ogura, Y., Matsumura, M., 1993. Retinal nerve fiber layer defect as an early manifestation of diabetic retinopathy. Ophthalmology 100 (8), 1147–1151.
6) Takahashi, H., Chihara, E., 2008. Impact of diabetic retinopathy on quantitative retinal nerve fiber layer measurement and glaucoma screening. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 49 (2), 687–692. Retrieved from. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&dopt=Citation&list_uids=18235015.
7) Rajala, R.V., Wiskur, B., Tanito, M., Callegan, M., Rajala, A., 2009. Diabetes reduces autophosphorylation of retinal insulin receptor and increases protein-tyrosine phosphatase-1B activity. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 50 (3), 1033–1040 iovs.08- 2851 [pii], 10.1167/iovs.08-2851.