2022.10.23
特別講演Iは,京都市立病院の鈴木智先生に,「眼瞼炎の診断と治療〜眼瞼「縁」と眼表面の関わり」と言うタイトルで講演頂きました。
眼瞼・眼瞼炎の診察方法,眼瞼炎は眼瞼皮膚炎と眼瞼縁炎に分かれること,
眼瞼皮膚炎は感染性と非感染性,眼瞼縁炎は前部眼瞼炎(ぶどう球菌性眼瞼炎など)と後部眼瞼炎(眼表面炎症に伴うもの,
マイボーム腺炎,閉塞性マイボーム腺機能不全) に分かれることをまず説明されました。
その上で,マイボーム腺の機能や解剖について詳しくお話しいただき,マイボーム腺への性ホルモンの影響や,
うっ滞したマイバムに対する異物反応による肉芽種と考えられてきた霰粒腫の病態にアクネ菌が関与していること,
閉塞性マイボーム腺機能不全と加齢の関係を教えて頂きました。
また,閉塞性マイボーム腺炎は非炎症性と炎症性に分けられ,非炎症性はドライアイを伴うこと,
炎症性はマイボーム腺炎角結膜上皮症(フリクテン型,非フリクテン型)を伴うことを説明頂きました。
また,マイボーム腺炎はアクネ菌をターゲットとしてクラリスロマイシン内服,アジマイシン点眼が有効である事,
非フリクテン型はブドウ球菌をターゲットとしてミノマイシン内服が有効である事を教えて頂きました。
マイボーム腺疾患を眼表面疾患との関連で考える考え方である,MOS(Meibomian gland and ocular surface),
BOS(Blepharon and Ocular surface)に基づいた診断・治療の重要性がよく分かりました。
豊富な研究データに基づいたご講演で,マイボーム腺研究を四半世紀に渡ってされている深みを感じました。
当別講演IIは,岐阜大学の坂口裕和教授に,
「プレミアム人工硝子体開発2022updateと,硝子体手術難症例・症例報告」というタイトルで講演頂きました。
先生が,人工硝子体開発プロジェクトで寄附講座に移動された経緯から始まり,
網膜剥離治療で使われるシリコンオイル,空気,ガス等のタンポナーデ物質が,体位保持が必要,
屈折率が硝子体と違って見えなくなる,効果が一次的といった問題点がある事を説明頂きました。
その上で,よりよいタンポナーデ物質として,自己集合性ペプチドゲルに注目して研究されていることを説明頂きました。
この物質は,塩に触れるとゾルがゲルになる性質を有しており,透明で,屈折率・光線透過率が硝子体とほぼ同じ,
動物実験で安定かつ安全,ウサギの実験でタンポナーデ効果が確認できたこと,
サルでの網膜剥離実験中であることなど,をお示し頂きました。
また,この物質が,抗VEGF薬の徐放デバイスとして使用できる可能性がある事について,
安定性,安全性,眼内移植方法,徐放能力,薬物包埋性,
in vitroでの有効性(HUVEC増殖抑制,遊走抑制)などに関するデータを示して頂きました。
まだ,2022年6月からはAMED支援事業に採択されたとのことで,今後ますますご研究が進むものと思います。
講演の後半では,網膜再剥離に,AHFVP(前部硝子体線維血管性増殖)が関与している可能性がある興味深い症例を提示頂きました。
新しい治療を研究する傍らで,一例一例の治療に真摯に向き合われている姿勢が伝わる講演でした。
谷戸 正樹