2022.07 UVC研究のデータがOphthalmology Timesの記事になりました

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https://www.ophthalmologytimes.com/view/expanding-the-focus-of-uvc-light-as-an-infection-prevention-tool

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感染予防ツールとしてのUVCライトの注目度が拡大


海津幸子,谷戸正樹

rat.jpg 米国産業衛生専門官会議(ACGIH)はこのほど、眼に対する紫外線C(UVC)の曝露許容限界値(TLV)に関して50年ぶりの変更を行い、 ウイルス不活性化のために照射可能なUVCのTLVを引き上げました。 UVCのTLVの改訂により、より効果的な条件でUVCランプ(222nmランプ)が使用できるようになりました。 今回の動物実験から得られたデータは、この長らく待ち望まれていた改訂において重要な役割を果たしたと思われます。

紫外線の種類
紫外線は、波長の長い順に315~400nmのUVA、280~315nmのUVB、200~280nmのUVCに細分化されます。 波長に関係なく、紫外線は人体に有害とされてきました。慢性的に紫外線を浴びると、 光老化と呼ばれる皮膚の早期老化を引き起こすだけでなく、皮膚がんを引き起こす可能性があると言われています。
眼においては、紫外線の影響について多くの研究が行われ、急性角膜炎、翼状片、結膜腫瘍、白内障などを引き起こすことが報告されています。 しかし、これまでの研究はUVAやUVBによる影響に関するものが多く、UVCはオゾン層で吸収され地表に到達しないため、 その影響に関する研究はほとんどありませんでした。
近年、Far-UVCと呼ばれる短波長の紫外線について、ウイルスや細菌に対する殺菌効果を持ちながらも 人間を含む生物に対する有害性が非常に低いことが明らかになってきました。COVID-19の拡大に伴い、 Far-UVCである222nm UVCは、有人下で使用できる新たな感染予防ツールとして注目されているのです。 ACGIHでは、8時間労働した場合の曝露許容限界値をTLVとして定めており、222nm UVCについては約22mJ/cm2と定められていました。 しかし、この値は40年以上前に報告された研究に基づいて決定されたものでした。

UVCのTLV改訂に向けて
ラットの角膜に5種類の波長の紫外線を照射して、紫外線による角膜障害を再評価しました1)。 254 nm の UVC は核酸の最大吸収波長に近いため角膜障害が最も大きく、わずか 20 mJ/cm2 の照射量で角膜障害が発生しました。
また、235nmのUVCでは300mJ/cm2、311nmのUVBでは600mJ/cm2で角膜障害が発生し、 Far-UVCである222nmと207nmはそれぞれ5000mJ/cm2、15000mJ/cm2で角膜障害が発生する事が明らかとなりました。 この値は254nm UVCのそれぞれ250倍、750倍であり、Far-UVCは角膜に対する傷害性が著しく低いことを示しています。
さらに、紫外線によるDNA損傷の指標であるシクロブタンピリミジンダイマーを用いて、紫外線の角膜組織への深達度についても調べました2)。 ラットの角膜上皮における紫外線の深達度は波長に依存しており、207nmと222nmのFar-UVCは、 生理的なターンオーバーによって約24時間で剥がれ落ちる角膜上皮の表層部までしか到達しないことが判りました。 このように角膜への深達度が極めて低いことと、角膜上皮のターンオーバーサイクルが速いことが、 Far-UVCの傷害性が極めて低い主な理由であると考えられます。 ラット角膜輪部(角膜から結膜への移行部)上皮における紫外線の深達度も波長に依存しており、 207nmと222nmのUVCは角膜輪部上皮の最表層までしか到達せず、角膜上皮幹細胞が存在する基底部には到達しませんでした。 これらの結果から、角膜上皮のターンオーバーサイクルはFar- UVCの影響を受けず、 紫外線照射が原因とされる翼状片や結膜腫瘍は発生しにくいことが示唆されました。 つまり、Far-UVCはこれまで考えられていたよりも眼に対する傷害性が低いということです。

ACGIHのTLV見直し
2022年、ACGIHは240nmより短い波長の紫外線のTLVを約50年ぶりに改訂し、 222nm UVCのTLVを22mJ/cm2から約160mJ/cm2と7倍に引き上げただけでなく、 これまで一緒に評価していた眼と皮膚を別々に評価することにしました。
この改訂には、島根大学での研究が大きく寄与しています。 222nmのUVCは、有人下で使用できることに加え、耐性菌を作らない、ウイルスの変異に影響されないという利点があります。 今回のTLV改訂により、222nm UVCがより有効に活用され、その応用範囲がさらに広がることが期待されます。


参考文献
1. Kaidzu S, Sugihara K, Sasaki M, et al. Evaluation of acute corneal damage induced by 222-nm and 254-nm ultraviolet light in Sprague-Dawley rats. Free Radic Res 2019;53:611-617. doi: 10.1080/10715762.2019.1603378. Epub 2019 May 27.

2. Kaidzu S, Sugihara K, Sasaki M, et al. Re-Evaluation of rat corneal damage by short-wavelength UV revealed extremely less hazardous property of far-UV-C. Photochem Photobiol 2021;97:505-516. doi: 10.1111/php.13419. Epub 2021 May 3.


    
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