公開講座名  島大医学部 特命科学捜査官 
   ~酒と毛根と男と女~ 遺伝子が解き明かす真犯人の謎!
    
実施責任者  竹永 啓三 (医学部生命科学講座 腫瘍生物学・准教授)
実施協力者
 秋元 美穂 (医学部生命科学講座 腫瘍生物学・助教)
 川上 耕史 (医学部生命科学講座 腫瘍生物学・助教)
 下条 芳秀 (大学院生)
 服部 美保 (大学院生)
 米原 千晶 (大学院生)
 日向 瑞貴 (医学部3年)
実  施  内  容
 
  日 時
   平成21年8月4日(火) 13:00~17:00
   平成21年8月5日(水) 10:00~13:00 (2日間連続のプログラム)

  会 場
    島根大学医学部(出雲キャンパス) 実習棟4階 生物学実習室
   
  対象者:出雲市内の中学生   参加者:13名         公開講座ポスター PDF

  内 容
     架空の事件を設定し、犯行現場に残されていた毛髪、血痕、唾液から犯人を割り出す
  というシナリオのもと、参加者は様々な分子生物学的あるいは生化学的な分析法に取り
  組んだ。実際には、①血液凝集反応による血液型の判定
②毛根からのDNAの抽出とPCR
  
によるアルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)の遺伝子型の判定 ③染色体標本による
  核型の判定と性別の判定を行い、
4名の容疑者(下表を参照)の中から犯人を特定した。
     プログラムの円滑な進行と、行き届いた指導を行うために、13人の参加者を3人な
  いし4人の班に分け、それぞれに対しティーチング・アシスタントを1名ずつ配置した。

      

容疑者A

容疑者B

容疑者C

容疑者D

血液型

O

A

B

B

ALDH2の遺伝子型

AA

GA

GG

GA







  凝集反応による血液型の判定
     ABO式の血液型は、赤血球表面の抗原とそれに対する抗体との直接的な凝集反応に基づ
  く検査法(オモテ試験)、および唾液中に存在する抗原を利用した間接的な検査法(ウラ
  試験)によって判定を行った。参加者は犯人の血液サンプル(実際には安全性が確認され
  ている市販の血液試料)と唾液サンプルについて血液凝集反応の有無を判定し、犯人が
B
  であることを特定した。また、各自の唾液を材料として、自身の血液型をウラ試験により
  確認してもらった。抗原-抗体反応の機構を理解するのは難しかったようだが、自身の材
  料をもとに血液型判定を行うことで、興味を持ちながら学習してもらえたようである。


  染色体標本による核型の判定と性別の判定
     犯人の染色体標本として、解像度の高い染色体標本の写真を用意し、ワークシートとし
  て配布した。参加者は相同染色体を個別に切り離し、染色バンドや大きさ、長腕と短腕の
  比などから判断して整列化した。これにより実際の核型判定法に近い方法で、犯人が男性
  (
XY)であるか女性(XX)であるかを検討し、犯人が男性であることを特定した。染色体
  標本の作製および核型の判定は実際には技量を必要とされるが、ワークシートとして簡略
  化することで、パズル感覚で楽しみながら学習してもらうことができた。

 
  PCRによるアルデヒドデヒドロゲナーゼ2 (ALDH2)の遺伝子型の判定
     遺伝子型判定のための出発材料としては、毛髪の毛根を使用した。安全性を考慮して有
  機溶媒を使用せず、毛根を直接タンパク質分解酵素で処理して
DNAサンプルを得た。得ら
  れたサンプルについて
PCR反応を行い、犯人のALDH2遺伝子型がGG型であると判定した。ま
  た、本プログラムでは同意書による了解のもと、参加者各自の
ALDH2の遺伝子型についても
  判定を行った。
ALDH2遺伝子型はアルコールに対する感受性の決定に関与しているので、作
  業の空き時間にパッチテストで各自のアルコール感受性を調べ、表現型から遺伝子型を予
  想した。各自の予想は
ALDH2の遺伝子型の判定結果と合致し、遺伝子型が表現型に反映され
  ることを理解してもらった。参加者からは「自分の材料を使って色々な実験をすることで、
  遺伝や表現型についてすごく勉強になった」という感想もあり、自らの材料でアッセイを
  行うことで、より興味を持って実験に取り組んでもらえたのではないかと考えている。


  以上の実験結果から、全ての参加者が、犯人の「性別は男、血液型はB型、ALDH2遺伝子型は
 GG
型」であると判断し、犯人が容疑者Cであると特定することができた。
 
   上記の基本プログラムに加え、今後の発展的な学習(夏休みの自由研究など)にも役立つ
 よう、実験操作中の待ち時間を利用して「ウシレバーおよびバナナからの
DNA抽出」を行った。
 有機溶媒を使用せず、界面活性剤(台所用洗剤の希釈液)によるタンパク質の分解、エタノー
 ルによる核酸の精製のみでの
DNA出を試みた。予備実験では成功していたものの、本番では上
 手く
DNAを抽出することができなかった。その点では残念であったが、合わせて行った「DNA
 ビーズストラップの作製」はかなり好評であった。参加者は管ビーズと丸ビーズを規則どおり
 に繋ぐことによって、実際の
DNA二重らせん構造を再現したストラップを作製した。「DNAビー
 ズストラップ」は楽しみながら
DNAの構造を理解できる良い教材であり、参加者にとっては良い
 記念品となったようである。


   各自に修了証を手渡し、全プログラムを終了した。終了後のアンケートでは、内容的には難
 しかったが楽しかったので、機会があればまた参加したいという意見が多かった。また、興味
 をもった内容については参加者によって様々で、プログラムの一部に偏ることなく、全般的に
 興味を持ってもらえたようである。さらに、「ヒトの体の仕組みについて知りたい」という希
 望や「(当教室で研究している)研究テーマについて知りたい」という要望があった。こうい
 った声を参考に、当教室では、サイエンスの面白さを感じてもらえるような魅力あるプログラ
 ムを今後も展開していきたいと考えている。


   写 真