外科療法

国立がんセンターの「診断・治療方法」 に リンクいたします。

【総論】 手術 (がんの標準的治療について)

がんの特性

臓器から発生したがん(原発巣)は、最初はその臓器にとどまっているが、時間とともに増えつづけ、やがて転移(てんい)をおこします。その様式としては、原発巣から@周囲組織(臓器)への直接広がっていく場合、Aリンパ管の中に入り込みリンパ節へ転移する場合、B血管内に入り、遠くの臓器へ転移(遠隔転移)する場合の3つがあります。
たとえば、胃がんの場合には図に示すように、@周囲の臓器である小腸、大腸、すい臓、ひ臓などに直接広がる場合と腹腔内に散らばるように広がる場合(腹膜はしゅ)、A原発巣に近いリンパ節?離れたリンパ節に転移する場合、B血管内に入り込み、肝臓や肺などの遠くはなれた臓器に転移する場合があります。

治療の方法について

がんの治療方法には、手術による切除、放射線療法、化学療法、免疫療法などがあげられ、それぞれ利点と欠点(手術では合併症、化学療法では副作用)があります。一般的には、原発巣を含めて周囲組織やリンパ節を含めて広めに切除する方法が標準的な治療になります。進行した状態で発見された場合、遠隔転移が認められた場合、体力的に手術が困難な場合、および他の治療法が有用であることがわかっている場合などでは、手術以外の方法をえらぶことになります。
また、一つの治療法のみでは十分な効果がない場合には、異なった方法を組み合わせることにより治療効果をあげようとする方法があり、「集学的治療」と呼んでいます。たとえば、膵がん、胆道がん、食道がんなどは、現在でも多くは進行した状況で発見されていますので、単独の治療法のみではその治療成績は不良であり、集学的治療が行われています。

リンパ節廓清(かくせい)とは?

「1. がんの特性」の項で述べたように、がんが進行すると原発巣からリンパ節へ転移をおこします。がんを治すためには、転移する可能性のあるリンパ節を合わせて摘出すること(リンパ節廓清)が必要です。リンパ節は、原発巣に近いものを第1群、遠いものを第3群、両者の中間のものを第2群とし、各臓器別や発生部位別にそれぞれ決められています。
理想的には転移があるリンパ節を廓清すればよいのですが、実際には手術前や手術中に転移があるリンパ節を正確に判断することは困難です。したがって、やや広めにリンパ節を摘出し、病理学的に転移の有無を確認することにより、最終的に病期(ステージ)や根治度(次項を参照)を決めています。これまでの手術成績をもとに、がんの発生部位や進行度を参考にして、第1群や第2群などの切除範囲を決めています。
Sentinel node navigation surgeryとは?:原発巣のがんがリンパ管内にはいり、最初に到達するリンパ節のことをセンチネルリンパ節(sentinel node, みはりの)と呼んでいます。がんのリンパ節転移はこのセンチネルリンパ節から始まり、その後、順番に遠くのリンパ節に転移するとの考えにしたがって、リンパ節廓清を行う手術手技をSentinel node navigation surgeryと呼んでいます。乳がんではその有用性が示されて不必要なリンパ節廓清を省略する方向にすすんでいますが、他のがんではまだ試験段階です。

治癒切除とは?

がんを手術で完全に取りきるためには、遠隔転移がないことを確認した後、原発巣と浸潤している可能性がある周囲組織、および転移の可能性のあるリンパ節をすべて切除する必要があります。最終的に、肉眼的・病理学的にがんの取り残しがないと判断した場合を「治癒(ちゆ)切除」と呼んでいます。
逆に、遠隔転移がある場合、切離した場所にがんの取り残しがある場合、および廓清したリンパ節よりもさらに遠くのリンパ節に転移している場合などは、「非治癒切除」となります。非治癒切除となった場合には、手術以外の治療方法、たとえば放射線療法や化学療法を行う必要があります。

拡大手術と縮小手術について

これまでの手術成績のデータより、がんの進行度(ステージ)を考慮した標準的な切除方法(標準的手術)が、各臓器別に決められています。しかし、進行がんでは、標準的手術ではがんをすべて取りきることができない場合があります。そこで、がんを取り残さないために、浸潤した周囲臓器、遠くのリンパ節、転移をおこした臓器などを広めに切除する手術を「拡大手術」といいます。拡大手術では、体の負担がふえるため安全性は低下し(合併症の発生や死亡の率は高くなる)、臓器の働きも低くなるため患者さんの術後の生活の質(QOL)はそこなわれます。
「縮小手術」は、がんの根治性を低下させることなく、できるだけ機能を温存し、手術によるダメージを軽減するようにした術式です。したがって、縮小手術では、安全性が向上し、術後のQOLが向上します。縮小手術のほとんどは比較的早期に発見されたがんに適応されます。たとえば、胃がんにおける縮小手術は、胃の切除範囲を少なくする方法、リンパ節の廓清範囲を狭める方法があります。また、近年、腹腔鏡を用いて各種の縮小手術が行われています。(6. 鏡視下手術の項を参照)

鏡視下手術とは?

内視鏡を使って行う手術です。手術を行う術者や助手はテレビモニターを見ながら、手術操作を行う方法です。内視鏡を入れる穴(10mm)と鉗子(かんし)を操作する穴をあける必要があります。

鏡視下手術の利点としては、傷が小さくてすむこと。大きく切らないので術後の回復が従来の開腹手術に比べて早いことがあげられます。したがって、術後の痛みも少なく早期に退院でき、社会復帰も早くできるようになりました。手術による体の負担がへるので、「低侵襲手術」とも呼ばれています。一方、欠点としては、術者が手術手技に慣れるまでは手術が長くなることがあげられます。
我が国では1990年代の初めに導入され、最初は胆石症に対する胆のう摘出術が中心でしたが、その後、良性疾患のみならず、肺がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝がん、胆道がん、膵がん、乳がんなどの悪性疾患でも広く行われています。現在では、ほとんどのがんに対して、鏡視下手術が行われており、その成績も従来の方法と変わらない程度まで手技が進歩しています。各種のがんに関しては、領域別の項を参照してください。


島根大学医学部 消化器・総合外科 田中恒夫