甲状腺がん

甲状腺がんについて

甲状腺(こうじょうせん)とは

甲状腺はのどぼとけのすぐ下、鎖骨よりも上にあり、正面から見ると蝶々の形に似ています。気管の前にありますが、気管や食道とはつながっていません。甲状腺は体になくてはならない甲状腺ホルモンを作る役割を担っています。

甲状腺がんの特徴と種類

甲状腺にできるがんは、他のがんに比べるとがんの性質がおとなしく、進行が遅いものが多いのが特徴です。甲状腺がんになる方は、男性より女性の方が約5倍多いとされます。若い方から高齢者まで、幅広い年齢の方が甲状腺がんを患う可能性があります。甲状腺のがんには、甲状腺乳頭(にゅうとう)がん、甲状腺濾胞(ろほう)がん、甲状腺未分化(みぶんか)がん、甲状腺髄様(ずいよう)がん、甲状腺悪性リンパ腫(あくせいりんぱしゅ)と主に5つの種類があります。

甲状腺がんの診断

【甲状腺エコー検査】

甲状腺の検査で最も良く行われるのはエコー検査です。首のところにゼリーをつけて、エコーの機械をあて超音波で甲状腺を観察するので、痛みなどは伴いませんし、体に害もない検査方法です。甲状腺に腫瘍(できもの)があるか、サイズはどれくらいか、表面は凸凹していないか、腫瘍の中の血流が豊富かどうかなどが検査できます。

【甲状腺穿刺吸引細胞診】

甲状腺に腫瘍がみられた時には、細胞の検査が必要な場合があります。甲状腺を針(採血をする時の針と同じ針)で刺し、細胞を顕微鏡で観察し、がん細胞がないかどうかを検査します。

【血液検査】

多くの場合、甲状腺がんにより甲状腺ホルモンが作られなくなったり、作りすぎたりすることはありませんので甲状腺ホルモンは正常です。甲状腺にのみ存在するタンパク質であるサイログロブリンを測定し、がんか良性腫瘍かを判定する参考にします。また、手術で甲状腺をすべてとってしまった後、がんの再発の指標として測定します。サイログロブリンの値が高くなってきた場合は、再発が考えられます。

【CT検査・MRI検査】

甲状腺がんが周囲に及んでいないか、リンパ節や他の臓器へ転移していないかを検査します。

【甲状腺シンチグラフィ】

薬を注射した後、時間をおいて撮影し、がんか良性腫瘍かを判定する参考にしたり、他の臓器へ転移していないかを検査します。

甲状腺がんの治療

【手術療法】

甲状腺がんの治療の基本は手術療法です。がんが小さく、周囲へ転移していない場合はがんを含めた一部の甲状腺を切除します。がんのタイプや大きさよっては、がんも含めて甲状腺をすべて切除する場合もあります。転移がある場合も甲状腺をすべて切除します。甲状腺乳頭がんは首のリンパ節に転移することが多いため、手術の時に首のリンパ節もとります。手術で甲状腺をすべてとってしまった場合は、甲状腺ホルモン剤を服用する必要があります。薬を一生飲み続けなくてはいけないということについて、抵抗がある方もおられるかもしれませんが、人間が元々もっているホルモンを補っているのであり、決められた量を服用している限り、健常な方とまったく変わりません。また、甲状腺ホルモンの産生は脳の下垂体で作られる甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節されてますが、甲状腺刺激ホルモンは甲状腺細胞を増やす働きがあります。よって、甲状腺ホルモンを服用することは、甲状腺刺激ホルモンを低下させ、甲状腺がんが増えるのを防ぐ目的もあります。
手術の合併症としては声がかすれる、出血、指先や口の周りがしびれる(血液中のカルシウムが下がる)などがあげられます。

【放射性ヨード内用療法】

甲状腺は昆布やのりなどに含まれるヨードを材料として取り込んで、甲状腺ホルモンを作ります。乳頭がんや濾胞がんは正常な甲状腺細胞と似ており、ヨードを取り込む性質を持っています。放射性ヨード内用療法はがん細胞のこの性質を利用しており、放射性ヨードを飲むと放射性ヨードはがん細胞に取り込まれて甲状腺がん細胞を破壊します。手術で取り切れなかったがん細胞や転移した部分も破壊することができます。正常な甲状腺が残っていると放射性ヨードは正常な甲状腺にばかり取り込まれて、がん細胞に取り込まれないため、放射性ヨード内用療法は手術で甲状腺をすべてとってしまった方が対象となります。

それぞれの甲状腺がんについて

甲状腺乳頭がん:

5つのがんの中で最も多く、9割近くを占めるのが甲状腺乳頭がんです。甲状腺乳頭がんはあらゆるがんの中でも、特にゆっくり発育するがんです。甲状腺乳頭がんによる症状はほとんどなく、甲状腺にしこりをふれるのみで、痛みはありません。まれに、甲状腺乳頭がんが甲状腺の周りの神経や食道に及ぶと、声のかすれやものが飲み込みにくいといった症状があらわれます。しかし、甲状腺にしこりを認める時点で診断される方や、他の病気を調べるために行った検査でたまたま甲状腺にできものがあることが分かり、診断される方が多いです。
甲状腺にしこりを認めた場合は、甲状腺のエコー検査を行い、必要な場合は甲状腺穿刺細胞診で悪性かどうかの判定を行います。甲状腺乳頭がんは遠くの臓器(肺や骨など)に転移することは少ないですが、甲状腺の周辺にある首のリンパ節に転移することが多いです。甲状腺の状態や、周りのリンパ節のはれを調べるためにCT検査を行うこともあります。
甲状腺乳頭がんの治療は手術でがんを含む甲状腺の一部、あるいは甲状腺全部と首のリンパ節をとります。甲状腺乳頭がんになった場合の予後(手術後の見通し)は非常に良好です。通常、がんの場合の予後は5年生存率で示されますが、甲状腺乳頭がんは10年生存率で表され、90%を超えます。10年生存率90%以上というのは、甲状腺乳頭がんと診断された方でも、きちんと治療を受ければ、9割以上の方が10年にわたり生存されているということです。首のリンパ節に転移をしていた場合もリンパ節を手術でとってしまえば、手術後の見通しは転移がなかった人とほとんど変わらないとされます。他の臓器に転移がある場合には手術後に放射性ヨード内用療法を行います。


甲状腺濾胞がん:

甲状腺乳頭がんの次に多いのが甲状腺濾胞がんで甲状腺がんのうちの5〜8%を占めます。濾胞がんもゆっくり発育するがんで、甲状腺のしこりで気づかれることが多いです。
検査は同様に甲状腺エコーで行いますが、甲状腺乳頭がんと異なり、甲状腺穿刺細胞診で悪性かどうかの判定が困難です。血液のサイログロブリンの測定や、時には甲状腺シンチグラフィで検査を行い悪性かどうかの判定を行います。表面が凸凹している場合や腫瘍の大きさが4cmを超える場合、サイログロブリンが非常に高い値の場合、腫瘍がどんどん大きくなる場合は、濾胞がんを疑って手術で切除し、顕微鏡で詳しく観察して診断することがあります。濾胞がんは乳頭がんと異なり、リンパ節への転移は少ないですが、肺や骨に転移することがありますので、胸部CTや骨シンチグラフィにて転移がないかの検査を行います。
甲状腺濾胞がんの治療も乳頭がんと同様、手術で切除します。転移を認める場合は甲状腺をすべてとってしまった後、放射性ヨード内用療法を行います。濾胞がんも進行が遅く、早期に治療を行えば治る率が高いがんです。10年生存率は80%程度とされます。


甲状腺髄様がん:

甲状腺がんの1〜2%程度のまれながんです。髄様がんは乳頭がんや濾胞がんと異なり、甲状腺ホルモンを作る細胞からできるがんではなく、カルシウムを下げる作用をもったカルシトニンというホルモンを作る細胞からできるがんです。約3分の1は遺伝性(家族性)に発生し、副甲状腺機能亢進症(カルシウムが高くなる)や副腎の褐色細胞腫(高血圧や発汗をきたす)など他の内分泌臓器の病気を合併するものがあり、多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)と呼ばれています。遺伝性の髄様がんは遺伝子検査により、髄様がんを発生する遺伝子があるかどうかを検査できます。  検査は甲状腺エコー検査や甲状腺穿刺細胞診を行いますが、血液検査でカルシトニンやCEAが高くなっているかどうかも診断に有用な検査です。
治療は手術療法です。遺伝性の場合は甲状腺のあらゆる場所にがんができる可能性があるので、甲状腺をすべてとってしまい、リンパ節も切除します。髄様がんは乳頭がんや濾胞がんと異なり、ヨードを取り込む性質を持たないため、放射性ヨード内用療法は効果がありません。


甲状腺未分化がん:

進行が早く、悪性度が高いがんです。高齢者に多くみられます。甲状腺未分化がんは甲状腺がんの約1~2%程度のまれながんです。急に大きくなる甲状腺のしこりや首の痛み、声のかすれなどが症状です。
検査は甲状腺エコーや甲状腺穿刺細胞診を行います。他の臓器への転移を調べるためにCTあるいはMRIで検査を行います。
治療としてはがんの状態にあわせて、手術療法、放射線療法、化学療法が行われます。


甲状腺悪性リンパ腫:

悪性リンパ腫は全身のリンパ組織に生じるがんです。橋本病(慢性甲状腺炎)という甲状腺の病気の場合、甲状腺にリンパが多くみられ、このリンパから甲状腺悪性リンパ腫をきたすことがあります。甲状腺が急に大きくなってくるのが特徴で、大きくなると飲み込みにくさや、息苦しさをきたします。しかし、ゆっくり大きくなる場合もありますので、橋本病の方で甲状腺が大きくなってきたと感じた場合は詳しい検査を受けましょう。
検査は甲状腺エコーや甲状腺穿刺細胞診を行いますが、診断を確実にし、治療方法を決定するために手術で甲状腺の一部を切除し検査することがあります。ガリウムシンチグラフィやCTあるいはMRIで他の臓器にも及んでいないか全身を調べます。
悪性リンパ腫のタイプや全身への広がり具合によって、化学療法や放射線療法が行われます。

甲状腺がんの治療後の生活

手術が終わった後も定期的な検査を要します。サイログロブリンの測定やエコー検査、CT検査や甲状腺シンチグラフィ検査を行います。必要な方は甲状腺ホルモン剤の服用を続ける必要があります。食事や運動の制限はありません。出産も問題ありません。

甲状腺がんを早く見つけるために

甲状腺のしこりのうち、多くは良性腫瘍です。しかし、一部にがんが含まれ、早期に治療すれば完全に治ってしまいます。首のところにしこりを感じたり、健診で異常を指摘された場合は、病院を受診し詳しい検査を受けましょう。