どんな脳腫瘍があるの? ≪原発性≫

原発性脳腫瘍の組織別頻度(1984-1996)/2003日本脳神経外科学会報告より(一部改)

代表的(頻度の高い)原発性脳腫瘍 1)

髄膜腫(Meningioma)

原発性脳腫瘍の26.2%を占め、最も頻度の高い脳腫瘍です。細かい組織型分類では9種類に分類されます。髄膜腫は脳ではなく、脳をつつんでいる膜(クモ膜表層細胞)から発生すると考えられています。硬膜という脳をさらに覆っている厚い膜に付着していることが多く、栄養血管も硬膜を栄養する血管から発生していることがほとんどです。一般に良性腫瘍でゆっくり増大するため、発生場所によってはかなりの大きさに成長しても無症状のこともあります。脳ドックや頭部打撲時の画像検査で偶然発見されることもしばしばありあます。
良性の脳実質外腫瘍ですので理論的には全摘出すれば根治します(全摘出例における5年生存率は94%)。しかし実際には重要な血管を巻き込んでいたり、後頭蓋窩や頭蓋底といった脳の奥深いところに発生することもあり、全摘出が困難な例も少なくありません。障害を出してしまう可能性が高い場合は、無理な全摘出をせずに術後の経過観察やγ-ナイフ照射が追加されることもあります(50%摘出例におけるγ-ナイフ治療の5年生存率は83%あります)。無症状で腫瘍が小さい場合には経過観察しますが、増大傾向があればγ-ナイフ治療が行われることもあります。
2%の割合で分裂能の高い悪性の髄膜腫も存在し、良性の髄膜腫に比べ予後は不良です。

代表的(頻度の高い)原発性脳腫瘍 2)

星細胞系腫瘍 / 神経膠腫 (Astrocytic tumor / Glioma)

原発性脳腫瘍のおよそ23%を占めます。脳において長い突起を四方八方にのばして神経細胞の間を支えている細胞(グリア細胞)が腫瘍化して生じる腫瘍で、グリオーマとも呼ばれます。脳実質から発生する腫瘍の中ではもっとも頻度が高く、脳組織の中を染み込むように増殖(浸潤)していくため、手術で全摘することは極めて困難で、手術以外に放射線や化学療法が必要となることがほとんどです。星細胞腫(WHOグレード1-2)、退形成性星細胞腫(WHOグレード3)、膠芽腫(WHOグレード4)の順で悪性度(増殖能)が上がります。退形成性星細胞腫の5年生存率は20%程度、膠芽腫では10%未満であり、あらゆる治療を追加しても平均生存期間は1年程度と極めて予後不良な腫瘍です。稀突起神経膠腫や上衣腫なども、性質は少し違うのですがグリオーマの仲間に入れられます。
画像では境界が不鮮明で、不均一できたない感じの造影効果を受けます。周辺には強い脳浮腫も伴い、この浮腫の領域にもすでに腫瘍細胞が浸潤していると考えられています。根治が難しい腫瘍なので、手術では機能を損なわないようにすることが最優先されます。障害を出さない範囲で最大限の摘出を行い(摘出率が大きいほど、その後の治療効果も上がり安く延命効果があるとされているためで、神経モニタリングやナビゲーションを駆使して行われます)、術後に放射線治療と化学療法を追加することが標準的な治療となっています。星細胞腫は比較的小児に多く、膠芽腫は成人で60歳以後の人に多くみられます。

代表的(頻度の高い)原発性脳腫瘍 3)

神経鞘腫 (Neurinoma/ Schwannoma)

原発性脳腫瘍のおよそ10%を占めます。発生源は脳から出た神経を包んでいる細胞(Schwann細胞)です。一般的に増殖能は低いので良性とされます。しかし発生する場所が脳幹という生命維持装置の近くであったり頭蓋底などであったりすることが多く、放置すれば致命的となることもあります。もちろん手術で摘出するにも非常に危険の高い場所ですので、臨床的には悪性の腫瘍といっても過言ではありません。

最も発生頻度が高い神経は聴神経で、70〜80%を占めます。続いて三叉神経、顔面神経、頸静脈孔(舌咽・迷走・副神経)、舌下神経と続きます。最も頻度の高い聴神経鞘腫の場合、耳鳴りや難聴で発症し、その後腫瘍の増大にともなって顔面神経麻痺が出現します。さらに進行すると、ふらつき、失調などの小脳症状、嚥下障害などの下位脳神経症状が出現してきます。

治療の原則は摘出術ですが、摘出により聴力障害や顔面神経麻痺が生じる可能性が高く、近年では厳重な神経刺激装置によるモニタリング下に摘出術が行われるようになっています。腫瘍が3cm以下で発見されたときや、術後の残存腫瘍に対してのγナイフ照射(制御率は90%以上だが、増大例が5%程度みられる)が行われることが多くなりました。

代表的(頻度の高い)原発性脳腫瘍 4)

下垂体腺腫 (Pituitary adenoma)

原発性脳腫瘍のおよそ18%を占めます。下垂体は生命にとって必須のホルモンを分泌する大切な臓器で、頭蓋底の「トルコ鞍」と呼ばれる骨の窪みにおさまっています。なんらかのきっかけでこの下垂体を構成する細胞が腫瘍性増殖を来したものを下垂体腺腫と呼びます。トルコ鞍のすぐ上には視神経が走っていますので、下垂体腺腫が大きくなると、頭痛などとともに、視野障害(典型的には両方の耳側が見えなくなってきます:両耳側半盲)、視力障害が生じます。また腫瘍によってホルモン分泌が障害され複雑なホルモン不足による症状をきたします。逆に腫瘍化した細胞によってはホルモンが過剰に産生されて症状を来すこともあります。下垂体腺腫は基本的に良性腫瘍ですが、大きくなると動脈や神経を巻き込んでしまい、手術や放射線照射などの治療も困難となることがあります。

  1. a. ホルモン非産生性(非機能性)細胞の腫瘍化・・・

    最も多いタイプです。視野欠損に気づかれず、かなり大きくなって発見されることもしばしばあります。よほど頭蓋内へ進展していないかぎりは、鼻から筒のような開創器を挿入してトルコ鞍まで到達して腫瘍を摘出する、経蝶形骨洞的摘出術が行われます。残存部や再発にはγナイフ照射されることもあります。

  2. b. 成長ホルモン分泌細胞の腫瘍化・・・

    末端肥大症といって手足や舌が肥大化します(成長期の子供であればどんどん骨が伸びて巨人症になります)。手術が第一選択ですが、成長ホルモンを下げるための薬物療法が追加される場合も多いです。

  3. c. 乳腺刺激ホルモン分泌細胞の腫瘍化・・・

    乳汁分泌が起こります(男性なら女性化乳房、性欲低下、女性なら無月経、乳汁分泌などが起こります)。一般的には薬物で治療します。

  4. d. 副腎皮質刺激ホルモン分泌細胞の腫瘍化・・・

    クッシング病とも言われ女性に多くみられます。中心性肥満、満月様顔貌、皮膚線条、多毛、高血圧、糖尿病、性欲低下、月経異常など、様々な症状が出現します。手術が第一選択です。

  5. e. 甲状腺刺激ホルモン分泌細胞の腫瘍化・・・

    動悸や多汗、体重減少、振戦などの症状が出ます。比較的腫瘍が大きくなってから発見されることが多く、手術が第一選択となりす。

  6. f. 性腺刺激ホルモン分泌細胞の腫瘍化・・・

    男性に多くみられ、性欲低下があります。巨大腺腫となっていることが多い腫瘍です。視野障害で診断されることがほとんどです。

代表的(頻度の高い)原発性脳腫瘍 5)

頭蓋咽頭腫(Craniopharyngioma)

原発性脳腫瘍の3.5%を占めます。お母さんのお腹の中で頭蓋骨や脳が形成されていく過程(胎生6週頃)に生じる頭蓋咽頭管という組織がそのまま残ってしまい、この遺残組織が腫瘍性増殖を来して生じると考えられています。下垂体腺腫と同様にトルコ鞍の近傍に発生する腫瘍で、ときに下垂体腺腫と区別がつきにくいこともあります。症状を来す年齢(好発年齢)は、小児期と成人になってからとの2峰性です。小児期と成人とでは、同じ頭蓋咽頭腫でも発生機序や病型に違いがあるとの指摘もあります。基本的に良性で、ゆっくりと成長するため、頭痛や視野障害で発症したときにはすでに大きくなっている場合がほとんどです。水頭症やホルモン障害で発症することもあります。

良性腫瘍ですが、この腫瘍は周辺の組織や血管に強く癒着する傾向があります。小さなうちは比較的安全に全摘出ができますが、大きくなって視床下部などの非常に重要な部分と癒着するようになると、術後に高率に様々なホルモン障害が出現します。このため術後にホルモン補充療法が必要となりますが、重篤なホルモン分泌障害が出現すると、死亡することもあります。代表的なホルモン障害として、抗利尿ホルモンの分泌が低下し尿崩症となります。尿崩症では尿が止まらなくなり、体の水分が失われ死亡する場合もあります。

全摘出できれば、5年生存率は90%以上です。部分摘出でも80%程度の5年生存率がありますが、再増大による症状悪化に対して、再手術を繰り返すたびに、予後が悪化していきます。近年では障害をださない最大限の摘出術を行い、術後にγナイフを照射する方法が一般的です。

代表的(頻度の高い)原発性脳腫瘍 6)

脳原発性悪性リンパ腫(Malignant lymphoma)

悪性リンパ腫とは、リンパ節や全身のリンパ組織をもつ臓器に原発するリンパ球系細胞の悪性腫瘍の総称です。ここでいう脳原発性悪性リンパ腫は、本来リンパ組織のない脳に発生するリンパ腫のことで、原発性脳腫瘍のおよそ2.9%を占めます。免疫力の低下したAIDS患者さんに発生することもしばしばあります。B細胞型、T細胞型、濾胞性、びまん性、など多くの分類がありますが、脳原発に多いのはびまん性のB細胞型です。好発年齢は60〜70歳台で、比較的高齢者に多い腫瘍ですが、高齢者では高次機能障害で発症することが多いです。

画像では比較的均一な増強効果をうけるこが多く、病変が数か所みられることもあります。またときに体の免疫能の調子により自然消失することもあります。

髄液検査で腫瘍細胞が検出できれば確定的ですが検出されないことも多く、通常は生検術が施行されます。この腫瘍は全摘出しても、部分摘出しても予後に差がないため、組織診断をつけるためだけの手術を行います。診断確定すれば、放射線療法や化学療法にうつります。80%の症例で放射線で腫瘍が縮小しますが、数か月で再発することがほとんどです。放射線の後に化学療法をすると、重篤な放射線障害が約3倍も起こりやすくなることがわかったため、現在は必ず化学療法を行った後に放射線治療を行います。近年、メトトレキセート大量療法の効果が示され、この薬が標準的治療となっていますが、半数は2年以内に再発します。5年生存率は24%程度で、予後が最も不良な脳腫瘍の一つです。

脳腫瘍全体に占める割合は低いものの、小児の脳腫瘍において代表的なものがあります。7)

胚細胞性腫瘍(Germ cell tumor)

原発性脳腫瘍のおよそ2.8%を占め、小児脳腫瘍に限れば15.4%を占めるもので、星細胞腫についで多い腫瘍です。欧米人に比べて日本人は2〜3倍高い発症率があります。好発年齢は10歳台で、男児に圧倒的に多く発症します。松果体や基底核、神経下垂体といった脳の中心付近に発生します。原始生殖細胞が成熟した胚細胞になるまでの時期に発生したと考えられる腫瘍であり、代表的な組織型がいくつか存在しますが、実際にはそれらが混在している場合がほとんどです。構成する組織型によって手術成績は様々で、治療によく反応するものから、生命予後不良なものまで存在します。

a. ジャーミノーマ(Germinoma)・・・

最も多い組織型です。神経下垂体部に出来ることが多く、視野障害や尿崩症(おしっこがとまらなくなるため、おねしょを訴え)にて発見されることがあります。性質は悪性ですが、WHO分類では予後良好群に入り、化学療法剤や放射線に感受性が高いので、手術は組織診断をつけるためだけの最低限なもの(生検術)とし、化学療法剤や放射線で治療します。治療により腫瘍は消失することが多く、5年生存率は91%ほどあります。

b. 奇形腫(Teratoma)・・・

2番目に多い型で、松果体部に発生します。皮膚や骨、神経など胎児を構成する成分が混在した腫瘍で、成熟度によって成熟奇形腫(予後良好群)と未熟奇形腫(予後中間群)に分けられます。治療は摘出術が第一選択ですが、脳の深い部分で限られたスペースしかないうえ、骨や軟骨など硬い成分が強固に癒着しているため摘出が困難なことがしばしばあります。術後の組織診断で未熟成分があれば化学療法や放射線療法が追加されます。5年生存率は成熟奇形腫で86%、未熟奇形腫で64%ほどです。

c. 胎児性癌(Embryonal carcinoma)・・・

松果体部に好発します。WHOの予後不良群に入り、摘出術と化学療法を組み合わせた治療を行いますが、5年生存率は46%とかなり低くなります。血中のAFPやHCGといったマーカーが診断の助けとなります。

d. 絨毛癌(Choriocarcinoma)・・・

性質や治療は胎児性癌と同様ですが、放射線感受性がある点、出血を来しやすい点に特徴があります。血中HCGも高くなります。思春期早発症が半数以上にみられます。5年生存率は44%で予後不良群で、肺などへ転移することもあります。

e. 卵黄嚢腫瘍(Yolk sac tumor)・・・

手術、化学療法、放射線と治療しますが、5年生存率は31%と最も悪いタイプです。血中AFPが高値となります。

脳腫瘍全体に占める割合は低いものの、小児の脳腫瘍において代表的なものがあります。

8)髄芽腫(Meduloblastoma)

原発性脳腫瘍のおよそ1.1%を占め、小児脳腫瘍に限れば11.9%を占めます。中枢神経の元となる神経管を構成する成分に類似した細胞構成をもつ腫瘍で、10歳前後(特に5〜9歳)の小児において、小脳虫部という後ろ頭の真ん中あたりに好発します。ふらつきや水頭症による頭痛、嘔吐などで発症することが一般的です。増殖能が非常に高く、また髄腔内播種や他臓器転移(特に骨転移)も起こしやすく極めて悪性ですが、放射線や化学療法剤に感受性が高いので、治療方針としては可能な限り摘出を行い、多剤併用の化学療法と放射線療法を行います。5年生存率は60%前後と報告されています。かつては生存率向上のため、強力な放射線を脳と脊髄全体に照射していましたが、生存率が上がっても放射線による遅発性障害のために重度の精神発達障害を来すことがわかったため、今日では化学療法を先行させる治療になりました。