大学教育改革プログラム合同フォーラム参加
 
【「大学教育改革プログラム合同フォーラム」にて事例発表(2006.11)】

日  時 2006.11.12(日)・13日(月)
場  所 パシフィコ横浜
主な内容 「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム(地域医療)」のコーナーに、岩手医科大学、横浜市立大学とともに本院から小林病院長が参加し、「夢と使命感を持った地域医療人の育成-日本版WWAMIプログラム-」の事例を発表した。


「質の高い医療人養成推進プログラム」
「夢と使命感を持った地域医療人の育成」
島根大学医学部附属病院  院長 小林祥泰  スライド(PDF)

1.地域医療教育の問題点

今、地域医療は医師不足で危機的状況にある。平成16年から始まったマッチングによる新臨床研修システムは地方の大学病院にとってベルリンの壁崩壊にも匹敵する大変革である。選択の自由を得た研修医を引き寄せるには魅力ある実践的臨床教育しかない。島根県は中山間地が多いだけでなく人口の多い隠岐という離島もあり、へき地医療の充実は永遠の重要課題である。本学では平成18年度から首長面接を受けた県内へき地出身者に限定した独自の地域枠推薦入試を開始した。しかし、このような熱意を持った学生を入学させても地域医療を担う医師を育成するには入学後もその動機付けを維持させる必要がある。真の地域医療人育成に最も重要なのは医学生や研修医に夢と使命感を与える教育と、そのための指導医の意識改革および地域医療教育体系化とスキルアップである。日本では米国のような実践的なクリニカルクラークシップ(CC)が行われている大学はなく、CCに対する意識改革を図るためには熱意ある教員に実地体験をさせる必要がある。また、地域医療教育を大学病院等の大病院で行おうとすること自体に無理があることを認識する必要がある。


2.本学のプログラムの考え方

実践的CCに対する意識改革を図るためには熱意ある教員に実地体験をさせる必要がある。このため本学の地域枠推薦入試に類似しており、へき地医療人育成で最も成功しているWWAMIプログラム(へき地が多く医学部のないWashington州周辺の4つの州(Wyoming, Alaska, Montana, Idaho)がワシントン大学に地域医療人育成を委託しているプログラム)で有名な米国ワシントン大学を訪問し、WWAMIプログラム担当者から過去30年間にわたり実施してきた教育のノウハウ、問題点の概要を学び、WWAMIプログラムに含まれる複数のへき地医療拠点訪問も含めた見学体験を実施する。さらに地域医療に必要な家庭医学の先進的教育を実施しているセントルイス大学、コロラド大学の家庭医学センターで見学体験する。研修医や医学生も同行させることにより地域医療への夢と使命感を持たせる。出来るだけ多くの教員、研修医を見学体験に派遣し、意識改革を図ると共に、体験した教員が中心となってワシントン大学等から講師を招いて、毎年、地域医療教育のFaculty Development(FD)を行う。これを3年間継続することによりCCを米国的な実践的CCに進歩させ、かつ卒後研修における地域医療教育の充実を図る。また、高精細遠隔診療教育システムによる地域医療教育充実プログラム実施のため離島や中山間地病院にこのシステムを設置し、定期的なネットカンファレンスや皮膚科等の専門医の遠隔診療を通じて遠隔地における高度な実践的臨床教育を行う。
さらに県内へき地市町村と地域医療シンポジウムを開催し、地域病院で研修している研修医も参加させて住民と共に地域医療を考える機会を作ることにより、へき地市町村と一体になった地域医療人育成を図る。


3.本プログラム内容の実施状況

平成17年10月に病院長他2名がワシントン大学、コロラド大学、セントルイス大学を訪問して派遣団の受け入れ要請交渉を行い、承諾を取り付けた。平成18年2月から3月にかけて各10名程度のグループで計4回にわたり、これらの大学の家庭医学センター、地域医療機関等を視察、実際に早朝から学生やレジデントの臨床教育の現場に参加して見学体験研修を行った。3月末にはワシントン大学等からWWAMIプロフラム担当者2名を講師として招き、地域医療人育成教育のノウハウ等について講演をしてもらうと共に、本学の訪米視察団の各代表が体験報告を行った。教職員、学生も多数参加し、従来にはない熱気のこもったFaculty Development(FD)となった。これを元に詳細な報告書を作成し、啓蒙のため教職員および医学生5・6年生に配布すると共にホームページに全文掲載した。平成18年6月にはワシントン大学が初めて実施した大規模なWWAMIプログラム研修大会に20名が参加し、地域医療人育成教育のノウハウ、問題点について各分科会に参加して研修を受けた。また、医学生に対する家庭医学における実践的臨床教育の本格的なデモンストレーションを見学し、有意義な意見交換を行った。
7月にはこの成果を第2回のFDで報告し、教職員のみならず学生にも啓蒙を行った。5月からは島根版WWAMIプログラム参加者の発案で卒後臨床研修センターが米国方式を真似た、プライマリケアに焦点を絞った朝食付き早朝セミナーを開始、出席率も高く好評である。このセミナーにも遠隔医療教育システムにより地域病院も参加している。また、高精細遠隔医療教育システムによる皮膚科専門医による遠隔診療も9月から開始された。平成18年度からは6年生の3週間におよぶ地域医療実習がスタートし、3年前から実施していた出雲市の乙立里家診療所(サテライト診療所として学生実習に使用)における外来見学実習だけでなく、約40カ所の地域医病院および診療所における地域医療教育が始まった。当初は双方に不安があったが、卒後臨床研修教員が全施設の巡回訪問を行ったこともあり、実施後のFDでは学生の満足度は予想以上に高く、地域医療機関側も良い意味で活性化されたとする肯定的な評価が大半を占めた。報告書並びにFDや新聞報道などにより本学の島根版WWAMIプログラムが次第に周知され、教職員や学生のみならず、県行政側および医師不足に悩む市町村の担当者、病院関係者においても、みんなで地域医療人を養成しようという機運が高まり、着実に意識改革が進行しつつある。また、へき地を抱える市町村で行う地域医療教育シンポジウムも平成17年は邑南町で実施した。平成18年度は神門川大水害で延期になったが、平成19年1月に大田市で実施予定である。


4.今後の展開とねらい

平成18年度の第2回訪米視察団は計19名が10月末から11月にかけてコロラド大学とセントルイス大学の家庭医学センターを訪問する予定である。今年度は12月に大学間協定を結んでいるコロラド大学から講師を招いてFDを実施予定である。
来年度は5月にWWAMIプログラムの元責任者が学部長を務めるオーストラリアの地域医療人育成のために設置された自治医科大学のようなRural Medical Collegeを約20名で訪問し、ノウハウと問題点を学ぶ予定である。秋にはコロラド大学、ワシントン大学等への訪問研修を行い、合計120名以上の参加を計画している。7月および12月にFDを実施予定である。また、地域医療教育シンポジウムも毎年実施する予定である。
本学の地域枠推薦入試は平成18年度から開始したが、定員5名に対し優秀な学生が多く応募したため6名を入学させた。平成19年度からは定員10名と倍増したが、WWAMIプログラムの波及効果もあり、すでにへき地を抱える市町村からの応募が出揃っている。市町村長の地域医療に対する意識改革、すなわち、従来は大学医局からの派遣に頼り切っていた考えが、地域も協力して地域医療人を養成しようという考えに変わりつつある。地域枠推薦入試で入学した学生が地域医療に貢献するには10年以上の年月を要するが、「百俵の米」の喩えのごとく、教育には目先のことだけでなく将来を睨んだ長期計画を実行に移すことが必須である。そのためには多くの教職員、学生が地域医療に対する関心を持ち、地域医療教育こそ、患者本位の医療を行う上で最も重要かつ基本的な臨床教育であることを認識してくれるようにする意識改革が重要である。
このために平成19年度に文科省の地域連携融合事業の補助を得て、本学に教授1,講師1,助手1の構成で地域医療教育学講座を設置し、附属病院にも地域医療教育センターを設置する予定である。医療人GP終了後は、島根県からの人件費寄付も得て本格的に地域医療教育を実施していく計画である。
地域医療人育成教育には大学だけでなく、県行政、地域医療機関、市町村、地域住民を巻き込んだ展開が必要であり、本学のねらいはそこにある。



 

      
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