─腎臓は体内でどういった役割を果たしていますか。

 腎臓は尿をつくる臓器で、体にたまった老廃物や水分を体の外に出しています。赤血球をつくるホルモンをつくり、ビタミンDを活性化させる役割があり、腎臓の機能が低下すると貧血や骨がもろくなります。血液は循環量の5分の1が腎臓に流れ続けており、体内の恒常性を保つために一生懸命働いています。

─高齢化に伴って慢性腎臓病が国民病と言われるようになっています。

 慢性腎臓病は、腎臓機能の度合いを示す「推算糸球体濾過量(eGFR)」の数値が3カ月以上にわたって60未満になるか、タンパク尿が出ている状態です。健康診断で分かります。進行すると末期腎不全に至るのみならず心筋梗塞、脳卒中を起こしやすくなります。eGFRは18~20歳の時は約100とされていますが、加齢とともに低下します。高齢者で高血圧や糖尿病などの病気がなくても3、4割の方は慢性腎臓病の診断基準に入り、成人の8人に1人と言われています(図)。山陰地方は高齢化が進んでいるので、それだけ多いと思います。主な原因は糖尿病と高血圧ですが、私の研究では低出生体重児(2500グラム未満)の子どもも慢性腎臓病になりやすいことが判っています。

年齢別のCKD患者の頻度
年齢別のCKD患者の頻度

─治すことはできるのですか。

 慢性腎臓病は治すことができず、上手に付き合っていく必要があります。悪化すれば、腎臓に代わって血液をきれいにする腹膜透析や血液透析、腎移植があります。再生医療が注目されていますが、腎臓はさまざまな細胞が組み合わさった臓器なので実現に時間がかかるといわれています。慢性腎臓病を予防するには禁煙、過度な飲酒を控える、適度な運動、適切な栄養管理、水分補給が必要です。

─4月から島大病院の腎臓内科が新体制になりました。

 統合腎疾患制御研究・開発プログラム(IKRA、イクラ)が発足しました(写真)。内分泌代謝内科、総合診療科、泌尿器科、膠原(こうげん)病内科、臨床検査科、腎臓内科の6科体制の組織です。腎臓は膠原病や、尿路結石などの泌尿器科系の疾患でも悪くなります。IKRA組織のほぼすべての医師が腎臓を専門としており、腎臓診療や研究、教育で協力していきます。

─各診療科が連携するメリットはどんな点ですか。

 全国で各診療科が連携して腎臓診療を行う試みは私の知る限りではありません。臨床研究、基礎研究等多くの診療科が協力することで大きな成果になり、根拠を持って診療に当たることができます。予防ではどうしたら悪化しないのかを研究し、県内では高齢者が多いので、腎臓がなぜ老化するのかという研究を進めていきます。

─県内では診療科偏在があります。大学病院として地域医療にどう対応していきますか。

 医師のマンパワーは少ないですが、県西部地域などで腎臓内科外来を行っています。基本的にはかかりつけ医の先生方が日々の診療を担い、専門医が2、3カ月に1回診るような二人主治医体制を進めます。島根県立中央病院でITを活用した透析医療を行っており、協力しながら離島、山間地の医療を工夫して支えていきたいです。

─雪深い山間地に住む患者の透析は大変なケースもあります。

 高齢化率の上昇とともに慢性腎臓病に対する新規薬剤が登場しており、今後は透析を始める年齢が高くなると予想されます。高齢者にどういった透析医療を提供できるのか検討していかなければなりません。その突破口になるのは、ITや訪問看護です。例えばITを使って在宅での透析状態を遠隔でモニタリングしたり、訪問看護師が透析をサポートしたりするなど、県内の体制づくりを考えていきます。

IKRAのメンバー
IKRAのメンバー

島根大学医学部附属病院
腎臓内科

神田 かんだ 武志 たけし 教授

1997年3月慶應義塾大医学部卒、米国ハーバード大学研究員、平塚市民病院内科医長、慶應義塾大医学部腎臓内分泌代謝科専任講師などを経て、2023年1月島根大医学部附属病院腎臓内科教授

丁寧な医療

地域の実情を背景に、地域に即した形で医療を提供するのが本来の地域医療です。そのためには、診療科間の連携のみならず、病院や診療所などの医療機関に加えて保健所等の行政を巻き込んでの連携が必要です。慢性腎臓病に対する医療はまさに地域に根ざした丁寧な診療から始まり、基礎的あるいは臨床的な研究を展開し、最終的には予防から治療までをシームレスに行うべきです。島大病院の腎臓病に対する新しい取り組みにご期待ください。

島根大学医学部附属病院

病院長 椎名 浩昭

島根大学医学部附属病院 病院長 椎名 浩昭