─小児脳神経疾患に特化した、部局を横断して治療に取り組むセンターが5月に立ち上がりました。

 脳神経疾患に限りませんが、小児医療は多くの診療科との連携による「チーム医療」が必須です。連携体制の強化は時間的なロスが少ない利点があります。現在は体制を構築中で、今後小児科、小児外科、形成外科、産婦人科医をはじめ、看護師や小児科病棟の保育士などと連携し、島根県の医療のレベルアップに貢献したいと考えています。

─センターでは「赤ちゃんの頭のかたち」が気になると受診される方が多いそうですね。

 赤ちゃんの頭の変形は90%以上が「向き癖」と呼ばれる位置性頭蓋変形です。赤ちゃんの頭蓋骨は脳が成長できるように柔らかくなっていて、変形しやすいです。胎内環境のほか普段の寝ている向きが主な要因です。例えば、仰向けで寝ていると後頭部が絶壁になりやすく、横向きで寝ていると頭が縦に細長くなったり、頭頂からみると左右非対称に見える「斜頭」になったりします。病気ではなく、脳の発達に影響はまずありません。見た目が気になる方は寝かせるときの向きをこまめに変えたり、保護者が起きている時間に赤ちゃんをうつ伏せで過ごさせる「タミータイム」を設けたり、保険適用外ですがヘルメット装着による矯正治療といった方法があります。

─残りの数%にはどんな病気がありますか。

 難病の「頭蓋縫合早期融合症」があります。頭蓋骨の正常な発育が阻害され、脳の発達に悪影響を与えて、発達の遅れや視力低下を招く恐れがある病気です。治療は生後6カ月未満の赤ちゃんだとまだ骨が柔らかいので、内視鏡を使った負担の小さい手術とヘルメットを被る治療で済む場合があります。しかし、6カ月以上になると骨が硬くなり、体に負担がかかる大きな手術が必要になります。見た目では向き癖か病気かの区別が難しいので、頭の形が気になる場合は早めに受診されることを勧めます。これまで島根県でこの病気の手術を行っている施設はなく、県外の病院に行ってもらうしかありませんでしたが、今回のセンター開設で山陰でも手術が可能になりました。

─君和田先生の専門の一つに「もやもや病」があります。どういった病気ですか。

 もやもや病は、脳血管の内頚動脈終末部が細くなってしまう原因不明の病気です。症状は手足の力が入りにくくなる、言葉が上手く話せなくなる、 手足が勝手に動く、けいれん発作などがあります。子どもは泣いたり、フーフーと風車を吹いたりするなどの過換気(息を何度も吸ったり吐いたりする)や脱水で誘発されやすいです。進行するにつれて脳の血流がだんだん足りなくなり、周囲の小さく細い血管が異常に拡張します。これを磁気共鳴画像装置(MRI)で見るとたばこの煙のように〝もやもや”して見えるため、もやもや病と名付けられました。もやもや病は約10%で家族内発症があり、子どもの診断をきっかけとして両親や兄弟姉妹にも見つかることがあります。家族に同じような症状がないかどうか気をつける必要があります。

─島根大学病院では、新たにMRI検査で鎮静剤を使わない「無鎮静高速MRI」の撮影方法を取り入れました。

 例えば、頭に水が溜まる小児水頭症では、経過観察のためコンピューター断層撮影(CT)写真を複数回撮影しますが、赤ちゃんは放射線の感受性が高いため、撮影による発がん性への影響が懸念されます。一方、MRIは撮影時間が長いため、じっとしていられない乳幼児に対しては、鎮静剤を投与する必要があり、それにより呼吸が浅くなる危険性があります。近年、MRIの技術の進歩により、短時間で撮影が可能となり、水頭症の評価をするだけでよければ、30秒以内に撮影できるようになりました。当院でスムーズに導入できたのは、放射線科の先生方や技師の方々のおかげです。欧米では普及していますが、日本では現在でもあまり浸透していません。

─「おしりのくぼみ」が気になると受診される方も多いそうですね。

 「おしりのくぼみ」はそのものが治療対象ではありませんが、それをきっかけに二分脊椎症という病気が見つかることがあります。二分脊椎症は乳児期に症状が出ることは多くありませんが、成長とともに足の動きが悪くなったり、痛みやしびれが出たり、おしっこやうんちが上手に出せなくなったりすることがありますので、気になる場合にはぜひお気軽にご相談いただければと思います。

NICUでの診察の様子
NICUでの診察の様子
ヘルメット治療イメージ(提供:株式会社AHS Japan Corporation)
ヘルメット治療イメージ(提供:株式会社AHS Japan Corporation)

島根大学医学部附属病院
小児脳神経疾患治療センター

君和田 きみわだ 友美 ともみ 准教授

2001年東北大医学部卒、宮城県立こども病院脳神経外科などを経て、2023年5月島根大学医学部附属病院小児脳神経疾患治療センター准教授(センター長)

小児の医療

医療に優劣はありませんが、島根県で最も充実させるべき医療の一つが小児医療です。小児は大人を小さくしたものではありません。きめ細かな医療が必要です。子供さんの病気を見る小児科の先生方に加えて、新しく頭の病気(脳神経外科)を専門とされる先生が赴任されました。島大病院にはすでに、小児外科と小児心臓外科があります。島大病院があるから、安心して働けるし住める…そんな環境にしていきます。

島根大学医学部附属病院

病院長 椎名 浩昭

島根大学医学部附属病院 病院長 椎名 浩昭