─肝臓にはどういった働きがあるのですか。

 肝臓は右上腹部にある体の中の最大の臓器で、重さは大人で1キロを超えます。役割としては①食べ物を栄養素として貯え、血中に送り出すタンパクの合成と栄養の貯蔵、②アンモニアなどの有害物質や、アルコール、飲んだ薬などを分解する解毒作用、③食べ物の消化・吸収に必要な「胆汁」を生成・分泌、といった働きをするとても重要な臓器です。

─肝臓は「沈黙の臓器」といわれています。

 肝臓は病気になっても症状が出にくい臓器です。例えば肝臓がダメージを受けて硬くなる肝硬変では黄疸や腹水といった症状が出ますが、症状が出たときにはかなり進行しています。肝臓は再生力が強く、一部を切っても再生して機能が戻ってきますが、炎症が慢性化すると、回復が見込めなくなります。

─肝臓の病気を予防するためにはどうしたらよいですか。

 肝臓の病気は一般的には肝炎→肝硬変→肝がんと進行します。肝硬変はウイルス性のC型肝炎やB型肝炎の進行によるものが多いですが、近年は薬によって治るようになってきました。最近はお酒の飲み過ぎによるものや、脂肪肝から肝炎となり、肝硬変になるものが増えてきましたので、気になる方は適度な運動や食事の見直しを勧めます。また、血液検査をすると結果に「AST」、「ALT」「γ-GTP」といった項目があると思いますが、これらは肝臓内の酵素で、肝臓の機能を調べるための重要な検査項目です。肝臓の細胞が破壊されるとASTとALTの値が上昇しますし、γ-GTPは肝臓のほか、胆道や膵臓の病気でも数値が上がるので、定期的に血液検査を受け、数値を注意して見ておくと良いです。

─肝がんの治療にはどういうものがありますか。

 肝がんは手術や抗がん剤の他に、針を刺してがんを焼く穿刺(せんし)局所療法やカテーテル治療といったものがあります。島大病院ではロボット手術の「ダヴィンチ」を導入していますので、病気の状態に応じて利用しています。また、転移がなくて小さいがんには肝移植も手法の一つです。肝移植は肝硬変治療にも有効な手段です。

─島大病院での肝移植の状況は?

 島大病院(当時・島根医科大学附属病院)では1989年、肝臓と十二指腸を繋ぐ肝外胆管が詰まる胆道閉鎖症から肝硬変になった1歳児に対し、世界で4例目、国内で初の生体部分肝移植を行いました。ですが、それ以降は一度も実施していませんでした。中国地方では現在、肝移植を行っているのは岡山大学と広島大学のみで、山陰両県で移植が必要になった場合は両県外で手術する必要があります。今後、この山陰で再び肝移植を実施するため、体制の構築に努めていきます。私は今年の3月まで長崎大学に在籍していましたが、そこで300件以上の肝臓移植に携わってきました。肝臓移植は血が止まりにくくなった末期肝硬変の方に行う手術ですので、出血が多く、大きな手術となります。この他、合併症や拒絶反応といったリスクがあり、術後の管理が重要になってきます。島大病院には肝移植を経験した医師が少ないので、若い先生方とともに手術や術後の管理を勉強していきたいと考えています。先日も若い医師を連れて、岡山大学で肝移植手術の見学に行きました。難しい移植手術に挑戦することで医師の育成に努め、島大病院のさらなる総合力の向上を目指します。そして、困っている山陰両県の患者さんの支援に尽力したいと考えています。

島根大学医学部附属病院
肝・胆・膵外科

日髙 ひだか 匡章 まさあき 教授

1999年長崎大学医学部卒業後、同大学第二外科入局。フランス・パリ大学ボジョン病院留学、イタリア・ウディネ大学客員教授、長崎大学病院移植・消化器外科准教授を経て2023年現職。

不可欠な医療

移植医療は難易度の高い医療ですが、一般的な医療へと変遷しつつあります。しかし、その基本がチームで行う安全な医療であることに変わりありません。1989年に当院で行った本邦初の生体肝臓移植が移植医療の発展につながったのは事実です。移植医療は頻繁に求められる医療ではありませんが、地域の人が安心して生活するためには“ないと困る医療”です。当院には肝移植、肺移植、腎移植のエキスパートがいます。移植治療に関することは、当院に是非ご相談ください。

島根大学医学部附属病院

病院長 椎名 浩昭

島根大学医学部附属病院 病院長 椎名 浩昭