─島大病院では9月末にAIを搭載した最新のCT装置を導入されました。

 新しく導入したコンピューター断層撮影装置(CT)は、人工知能(AI)の技術を盛り込んだGEヘルスケア・ジャパン社の装置で、国内で2台目、西日本では本院が最初の導入施設となります。医療でのAI応用と聞くと、コンピューターが医師に代わって病気の診断をすることを思い浮かべられるかもしれませんが、現時点の画像診断では主に「画像をきれいにする」、「注目したい成分を見やすく、診断しやすくする」役割を果たしています。また、技術を応用してスムーズな検査ができるようになっています。

─AIの技術で画像の質の改善ができます。

 低い線量の放射線で撮影すると画質が低下しますが、AIの深層学習(ディープラーニング)の技術で画像を作ると、被ばく線量を減らしながら画質を担保できます。それ以外にも、様々な場面でAI技術を応用しています。

─これまでCTでは診断しにくかった病気も、成分に注目する技術で診断がしやすくなりました。

 新しい装置では2種類のエネルギーのX線を高速に切り替えて発することで、体の中の物質を強調して映し出すことができます。例えば、図1は水を強調した画像です。従来のCTでは骨腫瘍は骨のカルシウムがどのように見えるかで診断していましたが、水を強調することで腫瘍自体が映るようになります。また脂肪成分を強調することで、通常のCTでははっきり見えないコレステロール結石がわかるようになります。血液が流れる様子を観察するためのヨード造影剤を強調すると、肺の動脈に血栓が詰まる肺動脈塞栓症の診断がつきやすくなりました。このヨード造影剤を注射して撮影する造影CT検査で、造影剤の量が足りないと健康な部分と病気の部分の色合いの差が乏しく、診断が難しくなることがあります。そのような場合であっても、先に述べた最新のAI技術とヨード成分を強調する技術を組み合わせることにより、健康な部分と病気の部分の差がはっきりする画像を作ることができます。
 2種類のX線ということで、放射線をたくさん浴びるような気がするかもしれませんが、低いX線エネルギーのときには少し多めの線量、高いX線エネルギーのときには少なめの線量となるように電流を制御することで、全体の被ばく線量が低くなるように工夫されています。

─AI搭載のカメラで検査をスムーズにできます。

 これまでの装置では診療放射線技師が、患者さんが寝台の中心に寝ているかを確認し、体のどこからどこまでを撮影するか範囲を決めていました。新しく導入した装置ではAIカメラで患者さんの体格を把握、自動で患者さんの中心を確認し、撮影する範囲も自動でセットします。また、今回の装置は撮影時間も短くて済みます。身長170cmの方なら、頭から足先までの全身を最短で4.3秒で撮影できます。高速で撮影できることはお子さんを撮影するときに役立ちます。例えば、肺の撮影をするときには息を止めてもらうのですが、お子さんは指示通りに息を止めることが難しい場合があります。撮影スピードが速いと呼吸をしたまま撮影しても、診断しやすい画像が得られます。

─島大病院のCT検査室は、楽に検査を受けてもらえるよう工夫がされていますね。

 CT検査室の前の椅子で順番を待ち、自分の番が来たらドキドキしながら検査室に入ってこられる。そのような様子の方を多く見てきました。少しでも落ち着いて検査を受けていただけるように、天井には澄んだ青空と緑や桜の木々が映し出される疑似天窓を設置し、視覚的に癒し効果を演出しています(図2)。最新の技術で確実な診断を行い、患者さんに安心して検査を受けてもらえる体制づくりをこれからも進めていきます。

島根大学医学部附属病院
放射線部

かじ やすし 教授

1989年3月島根医大医学部卒、天理よろづ相談所病院医員、神戸大講師、獨協医大放射線科主任教授などを経て、2022年8月島根大学医学部附属病院放射線部教授

新しい時代の医療

“コロナ”によりわたしたちの生活は大きく変わりました。3密を避けるためのWeb会議など、至る所で新しい技術が活躍しています。人工知能(AI)もその一つです。画像診断を扱う放射線領域では、AIを活用した技術革新には目を見張る部分があります。AIの支援を受けながら、業務の効率化を図り、患者さんに優しい病院運営を行って参ります。しかし、最終的な判断はAIがいくら進歩しても人間がしなければならない部分です。これからの医療では、AIに負けない“強い”医療人を育成することが求められます。

島根大学医学部附属病院

病院長 椎名 浩昭

島根大学医学部附属病院 病院長 椎名 浩昭