乳がん
─乳がんの患者さんは年々増加しています。
乳がんは2020年、男女合わせて世界で最も患者数の多いがんになりました。日本では毎年9万人が罹患(りかん)し、1万人が命を落としています。1990年代半ばは女性の20人に1人が罹患すると言われていましたが、現在は9人に1人とされ、今後も増加すると考えられます。原因には、食生活の欧米化や運動不足、閉経後の肥満といったことが挙げられます。また、10%は遺伝によるものです。罹患率は若年層である30代後半から急激に高まり、50~65歳頃にかけてピークを迎えます。
─早期発見のため、40歳以降の検診が重要です。
年々増加傾向の乳がんですが、早期に見つかれば治りやすいがんです。しこりの大きさが2㌢以下の「ステージ1」の場合、5年生存率は95%です。早期発見が鍵ですので、40歳を超えたら2年に1回、必ず乳がん検診に行きましょう。よく、著名人が若くして乳がんになるニュースが流れると、「私も大丈夫なのか」と心配される20~30代の方がおられますが、34歳以下の「若年性乳がん」は患者全体の約5%程度です。過度に心配する必要はありません。自己触診で月に1回程度、乳房に指をそろえ、滑らせて触ることで普段から変化を感じてみるのが良いです。しこりを感じたら受診してみてください。
─乳がんの治療は薬物、放射線などさまざまありますね。
薬物治療にはホルモン治療、抗がん剤治療、分子標的治療等があります。薬物治療にはそれぞれ副作用があり、特に、抗がん剤を用いる薬物療法は患者さんに大きな負担になります。乳腺センターでは医師と薬剤師が連携し、綿密な副作用対策を行っています。
放射線治療は、乳房を温存された方、乳房を切除したがリンパ節転移が高度にあった方を対象に行います。治療期間は5~6週間で、遠方の方を除いて基本的に外来で行います。
─手術も重要な治療法です。
手術には、乳房部分手術と乳房切除術があり、希望に応じて乳房を可能な限り温存する方針で診療に臨んでいます。当院では乳房部分切除術を行った場合、内視鏡を使い傷が目立たなく綺麗に乳房を残すことができます。
乳房を切除した場合についても、乳腺外科と形成外科が連携した乳房再建手術に取り組んでいます。当病院は日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会の実施施設認定を受け、インプラント(人工乳房)を用いたり、腹直筋皮弁、広背筋皮弁といった自分の体の組織を使ったりした再建を行っています。病状や治療の選択肢は患者さんが納得できるまで説明し、希望や価値観を考慮して治療方針を決めるように努めています。
─センターの展望は。
4月から乳腺の精密検査で重要な超音波検査のレベル向上を目的に、県内の乳がん診療に関わる医師、看護師、検査技師を対象にした乳腺超音波検査勉強会を実施しています。初回は60人が受講し、関心の高さがうかがえました。
また、私の前任地の広島では「乳がんサロン」という、患者さんが医師や看護師、他の患者さんとコミュニケーションができる場を月1回程度やっていました。当センターでもお茶を飲みながら、患者さんが気軽にお話や質問ができるサロンをやりたいと思っています。
乳がんと前立腺がん
がんの部位別罹患率は、男性では前立腺がんが、女性では乳がんが最も多く、乳がんはまれに男性にも発生します。乳がんも前立腺がんも、多くはホルモンに依存して増大し、概してゆっくりと進行するので早期発見・早期治療が必要です。当院では早期乳がんに対して内視鏡手術も行っています。一方、進行性乳がんには集学的治療が必要で、乳腺センターが責任を持って治療を行います。増加する乳がんの治療は当院に是非お任せください。
島根大学医学部附属病院
病院長 椎名 浩昭