大腸がんとロボット支援手術

─大腸がんは日本で最も罹患率が高いがんです。

 厚生労働省の調査によると、2020年に新たにがんと診断された人のうち、大腸がんは部位別では最多でした。喫煙、飲酒、肥満のほか、赤肉や加工肉の摂取といった生活習慣が大腸がんのリスクを高めるといわれています。早期の段階では自覚症状がないことが多いですが、血便や下痢、便秘の繰り返し、便が細くなるなどの症状があらわれることがあります。大腸がんの検査はまずは便潜血検査ですが、日本人は痔を抱える人が多く、便潜血検査が陽性でも痔と考えて放置してしまうことが多いです。40歳になったら年に1度は検査を受けてください。

─大腸がんの治療にはどういったものがありますか。

 手術、化学療法、放射線治療があり、初期の場合は低侵襲の内視鏡治療の選択肢もあります。手術には開腹手術と腹腔鏡手術があり、腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて傷が小さく痛みが少ないため、回復が早いというメリットがありますが、手術時間が長くなることや、がんが大きい場合は摘出が難しいといったデメリットもあります。

─最近では、腹腔鏡下で行うロボット支援手術が選択肢に入りました。

 ロボット支援手術は、指先の操作に近い繊細な動きが可能で、手ぶれが全くありません。例えば、直腸は拳一つ分ほどの大きさの骨盤内にあり、周囲には多くの神経や血管があります。これらを損傷してしまうと、性機能や膀胱機能の低下といった合併症のリスクがありますが、ロボット支援手術では損傷のリスクを最小限にでき、実際に合併症が減少しているデータも報告されています。今後、消化器がん全般でロボット支援手術がスタンダードになっていくことを期待しています。

─ロボット支援手術に力を入れておられます。

 当院は、ロボット支援手術機器「ダヴィンチ」を2台保有しており、消化器外科では大腸がん以外に胃や食道の手術も対応可能な体制を整えています。2019年から直腸のロボット支援手術を開始し、2023年からは結腸の手術も行っていますが、これまでに術中の機械トラブルや術後の患者さんの再手術などもなく、順調に行えています。

─ロボット支援手術を安全に行うため、多職種が連携する体制をとっています。

 ロボット支援手術を行っている泌尿器科、呼吸器外科、消化器外科、産科婦人科、麻酔科などが集まった「ロボット支援手術推進センター」を設置し、各科の手術報告や合併症の症例情報を共有しています。また、術中にトラブルが発生した場合には、緊急でセンターの医師を招いて手術に参加してもらえる協力体制を整えています。
 高齢者の多い島根県で、安全でより繊細なロボット支援手術を提供し、地域の医療レベルの底上げを図りたいと考えています。

複数の医師が情報を共有し安全に手術を行っています
複数の医師が情報を共有し安全に手術を行っています

島根大学医学部附属病院 消化器外科

山本 やまもと てつ 准教授

1999年島根医科大学医学部卒。中国地方の病院、島根大学医学部にて勤務後、2013年UC San Diego Moores cancer center(がん治療センター)客員研究員、2015年島根大学医学部消化器外科助教・講師を経て、2024年10月から現職。

私たちが“目指すもの”

 大腸がんは“癌”の中では耳にすることが多いがんです。ただ、いずれのがんもそうですが、進行期の治療は初期とは異なり、治療が複雑になる可能性があります。したがって、柔軟な多職種連携に基づく、より積極的なチーム医療の介入が求められます。当院全体ではこれからも病院の総力として、安心で安全な医療を地域に提供するために尽力して参ります。
 どんなに厄介な病気でも、満足度の高い医療を介して地域のWell-beingの実現を図ること、これが私たちの使命です。

島根大学医学部附属病院

病院長 椎名 浩昭

島根大学医学部附属病院 病院長 椎名 浩昭