老化と生活習慣病

─慢性腎臓病は誰でもなりうる病気です。

 体にたまった老廃物や水分を体の外に出す役割がある腎臓は、年を取るにつれて機能が落ちていきます。そして、加齢や生活習慣から来る糖尿病、高血圧、肥満など複数の要因が絡まって慢性腎臓病となります。慢性腎臓病は進行する病気で、腎不全に至ると、腎臓の代わりに血液をきれいにするための透析や腎移植が必要となります。腎臓専門医の仕事は、腎臓の機能低下を遅らせ、透析や移植を受けることなく天寿を全うできるようにすることが理想です。日本腎臓学会によると、超高齢化社会を迎える現在の日本において、約2000万人の方が慢性腎臓病に罹患しています。これは成人の5人に1人の割合で、国民病の一つになり得ると言っても過言ではありません。

─予防法はどうすればよいですか。

 腎臓は血管が豊富な臓器なので、動脈硬化で悪化する危険があります。血圧を下げ、動脈硬化を進めないためにも、減塩や減量、運動、禁煙による生活習慣の改善が大事です。例えば、日本高血圧学会が推奨する1日の塩分(食塩)摂取量は6㌘未満です。しかし、日常生活でこの量を維持し続けるためには、家族の協力が不可欠です。それに、特に高齢者の患者さんにとっては、おいしいものを食べることで生きがいを感じることも大切です。私は、患者さんやそのご家族に指導する際、減塩は「続ける」ことが大事だと伝え、時には食べたいものを食べて良いが抑えるところは抑えて、無理しない範囲で続けましょうと指導しています。

─慢性腎臓病に効果のある新しい薬が注目されています。

 最近特に注目されているのはSGLT2阻害薬という薬です。元々は糖尿病患者さん向けの薬で、尿に糖を出させて血糖値を下げる目的で使われていました。ですがここ2~3年で、糖尿病ではない方にも腎臓を保護する効果があることが判明し、透析に至るまでの期間を長くできると期待されています。現在当院では腎臓病がよほど進行していない場合は、積極的にこの薬の導入をすすめています。ただし、高齢者の場合は脱水などの副作用が出る場合があるので、1週間程度入院してもらい慎重に投与しています。

─「統合腎疾患制御研究・開発センター(IKRA)」で、老化に関する研究をされています。

 慢性腎臓病だけでなく、糖尿病、高血圧、肥満も加齢と共に罹患する可能性が高まります。老化の仕組みは、動物を使った研究で、現在分子レベルで解明されてきています。例えば、霊長類の研究で、カロリー制限すると寿命が延び、老化に関わる疾患になりにくくなることが分かっています。島根大学医学部には、腎臓病を多面的に研究する「統合腎疾患制御研究・開発センター(IKRA)」が2024年2月に発足しました。ここで私は老化を制御する可能性のあるNADという補酵素について研究しています。NADを増加させることで、ヒトの代謝の機能の一部が改善した例を最近報告しています。実用化にはまだ時間がかかりそうですが、NADをさらに研究することで、慢性腎臓病を含む老化に関わる生活習慣病に対して新しい治療法を開発し、島根県で健康長寿を実現することを目標に研究を進めていきます。

腎臓病教室の様子
腎臓病教室の様子

島根大学医学部附属病院 腎臓内科

𠮷野 よしの じゅん 准教授

2000年慶應義塾大学医学部卒業。同学部博士課程卒業(医学博士)、助教、ワシントン大学医学部内科Assistant Professor、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科特任准教授などを経て、2024年から島根大学医学部附属病院腎臓内科准教授、2025年から同診療教授を務める。

老化を遅らせる?

 今回は腎臓に関わる“老化”のお話です。老化と似た言葉に加齢があります。老化は、働き(機能)の変化を意味するのに対し、加齢は単に時間の経過を意味します。腎臓も加齢とともに老化現象がおこり、機能変化をきたします。老化は私たちが生きていく上では不都合ですが、誰にでも起こります。一方、この老化は生活習慣によっては進行を遅らせることができるのです。加齢に伴う腎臓機能の変化、すなわち老化を制御する新しい治療法の開発が期待されるところです。

島根大学医学部附属病院

病院長 椎名 浩昭

島根大学医学部附属病院 病院長 椎名 浩昭