第3回島根視覚リハビリテーション研究会

2019年8月26日 第3回島根視覚リハビリテーション研究会が開催されました。
第3回目の島根視覚リハビリテーション研究会を,神戸アイセンター病院の心理カウンセラー田中桂子先生をお招きし開催しました。 2件の症例検討と私(原)のトロント,アナーバーでのロービジョンケアについての見聞を報告いたしました。 以下,北米LV(Low Vision)ケア見聞として記載します。
まず,トロント(カナダ),アナーバー(アメリカ)のいずれでも感じた事は,ロービジョンケアが眼科医療の中でしっかりと根付いていることです。
トロントでは,ロービジョンケアを専門とされているDr. Markowitzのもと見学をいたしました。CNIB(Canada National Institute of Blind)では, カナダ国内の眼科初期研修医を集めたLVおよびLVケアについての講義・実習が1日かけて行われていました。 その中では,4,5名のLV患者が自分の体験談を話し,その後,研修医を囲んだセッションを行い,より細かな事(生活,補助具,公的サポート,家族の事など)を話していました。 このように,眼科医がそのキャリアの最初の段階で,LV患者の訴えをしっかりと傾聴する機会を持つことはとても大切なことだと感じました。
ミシガン大学のあるアナーバーで,まず驚いたのが,LV外来が,Glaucoma, Retina, Pediatricsなどと共に広いスペースを与えられ(写真1), 専門の職員が大勢いて,活発に外来活動を行っていたことです。今,私たちは,倉庫の一部を使ってLV外来を行っています。もっとLV外来の認知度を高め, 専門外来として機能させていかなくてはならないと思いました。
車社会であるアメリカらしいLVケアも垣間見ることができました。患者さんは,17歳女性のStartgardt病の方です。視力は裸眼で20/125,矯正視力20/80でした。 日本では,とても自動車の運転が勧められる状況ではありません。しかし,アメリカでは,Telescope付き眼鏡(写真2)で視力が20/40以上あれば運転が可能でありました。 この患者さんは,Telescope付き眼鏡視力が20/25でした。視野が良好(GP:V/4eで耳鼻側合わせて100度以上), 運転免許センターでの講習受講が必須という条件が付いていましたが,それでも,これくらいの低視力の方が自動車を運転されるというのを聞いて驚きました。 今後,自動車の性能向上など条件が整えば,日本でもLV患者さんの自動車運転が可能となるでしょうか。 障害者個人の権利を,「皆が迷惑するから諦めましょう」と制限するのではなく,「あなたが活躍するためにやってみましょう」と保護維持していく取り組みが日本においても必要かもしれません。
もちろん,LVケアにおいて全ての点でアメリカ・カナダが日本より勝っている訳ではありませんでした。アメリカでは, 視覚障害と認定されても,補助具として公的な購入サポートがあるのは眼鏡程度で,拡大読書器などは全て自腹購入です。つまり,低所得者層では,必要なケアは受けられません。 広大な国土をもつカナダでは,十分なLVケアを受けられる人は一部であると言われました。障害者支援という点においては,アメリカ・カナダ・日本いずれも, 社会・財政状況との兼ね合いの中で公的支援の枠組みが策定されており,「持っているものでやっていかなければならない」(Dr. Markowitz)という状況はあまり大差がないのだと感じました。

原 克典


写真 1

写真 2

     
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