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研究の概要

①尿路性器癌の診断と治療

 限局性前立腺癌では癌の増殖とアポトーシスに関連する遺伝子群をgenetics(遺伝子多型あるい突然変異)とepigenetics(プロモーター領域のメチル化)の両側面から解析し、治療後の再発リスクを術後早期に予測可能なbiomarkerの同定を試みています。一方、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)組織では、前立腺癌治療薬であるエストラムスチン(EM)に特異的に結合するエストラムスチン結合蛋白(EMBP)が高濃度で存在することを発見し,これがCRPCの化学療法でエストラムスチン(EM)を併用する根拠のひとつとなっています。さらに、ドセタキセル(DTX)抵抗性CRPCに対する治療戦略としてDTXとサリドマイド併用化学療法(DT療法)に注目し、cDNAマイクロアレイを用いてDT療法の標的候補遺伝子としてVCAN遺伝子を同定しました。このVCAN蛋白の発現量からDT療法の効果を予測することが可能で、VCAN遺伝子の機能抑制を担う創薬の開発が期待されます。また、限局性前立腺癌治療前後のQoL変化を縦断的に評価し、治療法別(恥骨後式前立腺全摘除術、会陰式前立腺全摘除術および密封小線源療法)にみたQoL変化をエビデンスとして患者さんに還元しています。画像診断では組織弾性を可視的に捉えるreal-time tissue elastography (RTE)や前立腺癌組織での代謝情報を可視化するmagnetic resonance spectroscopy (MRS)が、前立腺癌の局在診断のみならず治療効果の判定にも応用可能なことを報告しました。最近では前立腺癌の骨転移巣に対する治療効果判定に、骨シンチ画像から自動的にbone scan index(骨シンチの定量化指数)を算出するBS診断支援ソフトBONNAVI®を応用し、その有用性を報告しています。
膀胱癌では、その発生と進行における細胞内情報伝達シグナル(Wntシグナル)の関与を研究し、Wntシグナルの中心とされるbeta-catenin遺伝子の異常以外に、Wnt-antagonist family遺伝子のメチル化が膀胱癌の診断的マーカーになり得ることを発見しました。一方、癌の浸潤転移に関与するheparanase遺伝子は、膀胱癌ではメチル化が明らかに低下していました。これは癌抑制遺伝子の多くがメチル化を伴う現象とは全く逆であり、この低メチル化がheparanase遺伝子の発現亢進に関連している可能性を報告しました。臨床面では、浸潤性膀胱癌に対する尿路変向として、回腸新膀胱と従来の回腸導管をQoLから評価し,回腸新膀胱では術後の日常生活に大きな影響を及ぼさないことを証明しました。さらに、限局性前立腺癌に対する優れた術式である会陰式前立腺全摘除術を膀胱尿道全摘除術に応用し、新たな低侵襲手術として経会陰式膀胱尿道全摘除術を確立しました。また、骨盤リンパ節転移の有無を術中に迅速かつ正確に判断する目的でインドシアニングリーン(ICG)蛍光測定法を導入し,より確実な骨盤内リンパ節廓清を行い術後再発の減少に貢献することが可能となっています。一方,腎癌ではICG静脈投与後、正常腎実質組織に比較し腎癌組織で明らかにICG蛍光が低下しており,この事実に着目し安全で確実な腎部分切除術式を確立することができました。

②前立腺の硬度と排尿動態の関連

 前立腺肥大症患者では,前立腺容積(大きさ)と排尿症状が一致しない症例にしばしば遭遇します。そこで,RTEを用いて前立腺の硬度と排尿動態の関連を解析し、 最大尿流量率は前立腺容積よりも矢状断での前立腺内腺の硬度に強く相関することを見いだしました。前立腺肥大症に対する低侵襲治療法として注目されるボツリヌス毒素の前立腺組織内注入療法でも前立腺容積の減少以外に前立腺硬度の低下が治療効果に関連しており、今後はこの「前立腺の硬さ」にも注目したいと考えています。

③膀胱再生

 再生医学では組織再生の場となるscaffoldの選択が重要で、コラーゲンを基本骨格とする生体適合性に優れた同種由来の膀胱acellular matrix graft (BAMG)を用いて膀胱再生の研究を行いました。小動物(ラット)では,宿主ラットの病態(STZ誘発糖尿病あるいは脊髄損傷に伴う神経因性膀胱)に関わらず移植したBAMGに正常な膀胱組織が再生し,サイトカイン投与により再生過程が総括的に促進されることを報告しました。一方,大動物(ブタ)では、BAMG内での血管新生や神経再生が遅延し、組織再生が完成する前に組織退縮が生じる可能性が強いため、BAMGの臨床応用には平滑筋組織の再生遅延に伴うグラフト萎縮を克服することが不可欠と思われました。そこで,ブタ膀胱にBAMGを移植する際に尿管を同時に移植することで、より早期からBAMGで尿路上皮の被覆、新生血管ならびに平滑筋組織の再生を確認でき、臨床応用に向けての大きな前進となりました。

 今後は,診療科あるいは基礎医学・臨床医学の枠にとらわれず相互に協力し、より優れた医療を臨床に展開できるように泌尿器科研究を発展させていきたいと考えています。

研究

※代表的な研究の一部