島根大学医学部整形外科学教室
MENU
トップページ
はじめに
教授室より
診療案内
医局員紹介
研究内容
診療実績
関連病院
学会情報
入局案内
リンク集
トピックス
サイトマップ
会員専用ページ
SMART
メール

トップページ教授室より > 平成19年 年頭所感
教授室より
平成19年 年頭所感
島根大学医学部整形外科学
教授 内尾祐司
 新年、明けましておめでとうございます。

 昨年は、当教室が第39回中国四国整形外科学会を担当させて頂き、皆様の御陰をもちまして無事終了致しましたこと、厚く御礼申し上げます。

 平成19年の新春を迎え、皆様にお慶びを申し上げますとともに、年頭に当たりご挨拶申し上げます。

 前身の島根医科大学が昭和51年に開校してから30年を経た今、私たちは医学・医療の進歩の担い手としての責務と地域社会に貢献できる医療人の育成を使命として、日々精進していかなければなりません。このような中、私たちをとりまく医療、医学、医育制度の環境は、大きく変貌しつつあります。平成15年10月の旧島根大学との統合、平成16年4月の国立大学法人化、新医師臨床研修制度の開始等、激動の最中に私たちはいます。

 まず、国立大学法人化によって、大学の運営は学長ならびに6名の理事によって行われ、予算権、人事権を含めた全権が学長に委譲され、全ての意思決定ならびに業務命令はtop-down方式となりました。私自身、法人化は公務員から解放されて自由になる事と夢想しておりましたが、実は独立法人となったとはいえ、国が事業主であり、運用される法律は独立行政法人法であるということで、実質的には“国”の社員であり、名称のみが変わっただけでした。そればかりか、大学は自主運営しながらも、その評価は大学毎に官僚によって定期的にチェックされることになり、ますます官僚主導・支配が強くなったような印象があります。

 事実、文科省は、大学に運営上の理念、目標・計画の提出および自己評価を義務づけています。これに対して大学は膨大な時間と労力と資金とをかけて、中・長期目標、計画書の作成と自己評価を行い、文科省に報告しています。また、今後数年の内に第三者の認証評価機関による大学の評価が行われます。そのために全ての教職員の業績のデータ収集と評価が行われています。法人になった以上、当然のこととはいえ、最終的には大学内での人員の淘汰、ひいては大学そのものの淘汰が生じることを暗示していると考えるのは考えすぎでしょうか。

 また、財務省は大学の予算を毎年1-2%削減することを示し、人員および研究費の削減は避けられないことになります。そのため、大学は外部資金の導入を積極的に図るよう、指導されています。統合後の島根大学において、外部資金の導入が可能な学部として最も期待される医学部は、研究の拡充や産官学連携プロジェクトの推進のほか、附属病院の経営改善にも積極的に取り組まなければなりません。

 一方、3年前から導入された新医師臨床研修制度によって、各科の入局者は2年間ゼロとなり、地方では関連病院からの医師の引き上げ、いわゆる”医者剥がし現象”が生じました。また、後期研修が始まった昨年、中国・四国地区における帰学率は本制度が発足する以前に比べて半分以下となり、中でも整形外科を目指す若い医師は40%以上減少したと報告されています。さらに、名義貸し問題から派生した、医局制度に対する非難によって、多くの医学部は本学も含めて、「赴任は個人の自由意思とし、人事は医局とは独立した外部の地域医療対策委員会での決定」ということになりました。しかし、若い医師が自分の意思で何年間も僻地、離島に赴くとは現状では到底考えられず、研修医の地方大学離れと相まって、地方の医療はほとんど壊滅状態を呈しているといっても過言ではありません。

 しかし、このような多くの逆風のなかで、現状におかれた我が身を託つのでなく、この環境のなかで、図太く生き抜くすべをみつけていかなければなりません。私は「この難局を乗り越えるために、教室を運営する上での要諦は何か」、と考えるとき、人の心こそが教室運営の要であると確信しております。いかに強固で信頼しあえる心の結びつきをこの教室という組織の中で実現できるかということが、この教室の発展の鍵であると信じて、運営を進めていくつもりです。私淑する稲盛和夫さんの言葉をお借りすると、「愛されるためには愛さなければならないように、心を基本とした人間関係を築くには、素晴らしい心の持ち主に集まってもらえるような、素晴らしい心を、経営者自らが持たなければならない」と考えます。私心をなくして、教室ならびに関連病院の皆様が心を寄せてくれる教室・大学のために命をかける、というくらいの気持ちで仕事をしていくつもりです。

 当教室の使命の一つには、人間性が豊かで思いやりがあり、人類の福祉に貢献できるような医学・医療を拓くことのできる医療人を育成することにあります。そのためには人材の育成がなによりも重要であると考えています。大学病院整形外科において、専門外来を設置するとともに、研修会・勉強会の開催や国内留学・研修を通して、卒後教育の充実とsub-specialtyをもった専門家の育成に力を入れて参ります。まだ、緒についたばかりではありますが、現在、脊髄・脊椎外科、関節外科、スポーツ整形外科、ならびに骨軟部腫瘍学、リハビリテーション等を各スタッフが中心となって積極的に取り組んでいます。

 関連病院におきましては、教室出身の部長、医長によってman-to-manでの教室員の臨床研修指導を行っています。また、関連病院部長・医長には研修医のための教育講座の講師をお願いし、病院の枠を超えて若い先生方の教育にも取り組んでもらっています。さらに、昨年から始めた大田市立病院との地域医療情報ネットワークを用いたネットカンファレンスを推し進め、積極的な大学・関連病院間の交流を行いたいと考えております。

 一方、医学生教育におきましては、それまでの講義中心の教育からチュートリアル教育、客観的臨床能力試験、いわゆるOSCE(Objective structured clinical examination)やクリニカルクラークシップ(診療参加型実習)が取り入れられ、医学生自らが積極的に勉強・実習するシステムが導入されました。それに伴い、教室も課題症例の作成、局所解剖実習、医学生アンケートによる教員に対する講義評価、個別臨床学生指導などを行うとともに、関連病院の協力を得て、医学生教育の充実を図って参ります。昨年から導入された地域医療病院実習では、関連病院の先生には医学生教育に積極的に取り組んでいただきました。

 さらに、研究面におきましては、臨床ならびに基礎研究の業績を向上させるべく、精進しております。2005-2006年に掲載された教室の英文論文は13編で、JBJS、AJSM, Arthroscopyなどのquality journalに発表しました。そのうち、研究の一つは島根大学の健康長寿プロジェクトにも選ばれ、一昨年東京国際フォーラムで開催されたイノベーションジャパン2005ではUBSスペシャルアワード医療福祉部門を受賞しました。昨年、この研究を臨床応用すべく、本学医学部附属病院医の倫理委員会に申請し、承認を得ました。今後、臨床試験を行い、その有効性を検証していきます。

 2007年を迎え、私たちを取り巻く環境はさらに厳しくなっていくと考えられ、決して楽観できるものではありません。そのような中、私たちが生き残るためには何をどうすればよいのでしょうか。私たちは旧帝大、旧医科大学と同じような方策を取ることは、人材および資金面からみて、決してできませんし、ましてや国や自治体の積極的な後押しが私たちに有る訳でもありません。従って、私たちが取るべき道は、彼らがしないようなフィールドで少ない人材と資金で、知恵を駆使することによって実現できるテーマで勝負して、自らのプレゼンスを社会に示し、地域社会への貢献によって、その信頼を得るほかないのです。

 ダーウィンの言ではありませんが、生物は変化する環境に適応しながら、絶えず進化し生き抜いてきました。そして、今みられる生物種は必ずしも巨大なもの、器官を高度に発達させたものだけが生き残っているわけではありません。今、島根大学自体の存在を問われる危機的状況ではありますが、生き抜こうとする強い意志と環境を乗り越える知恵こそが未来を拓く鍵であると思います。このようなときこそ、教室および関連病院の皆様の心を一に合わせることによって、この難局を乗り越えることができると信じています。人の心が堅く結びついて成し遂げられた奇跡とも呼ばれる偉大な業績が古今東西、時間・空間を超えて数多く存在することを私たちは知っています。逆に、一見うまくいっている様に見えていた集団・企業・社会が構成する人の心の荒廃によっていとも簡単に崩壊していった例もまた、歴史をそう辿らなくても存在したことも知っています。心はこのように不定でありますが、縁あって、この時代・この場所で私たちはともに生きていくことになった以上、強固で信頼しあえる結びつきを教室や関連病院の皆様とともに医療という場で実現して日々精進し、地域社会のために貢献したいと考えています。

 最後に、今年が皆様にとりまして、希望と幸せが満ちあふれる年となりますように、心より祈りまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

ページの先頭へ

Copyright(c) 2003 Department of Orthopaedic Sugery, Shimane University School of Medicine. All Rights Reserved.