島根大学医学部整形外科学教室
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トップページ教授室より > 平成22年 年頭所感
教授室より
平成22年 年頭所感
島根大学医学部整形外科学
教授 内尾祐司
 新年、明けましておめでとうございます。

 平成22年の新春を迎え、皆様にお慶びを申し上げますとともに、年頭に当たりご挨拶申し上げます。

 前身の島根医科大学が昭和51年に開校してから34年を経た今、私たちは大きな変革の時代にいます。昨年の“今年の漢字”が『新』で象徴されるように、米国では『CHANGE』を唱えたバラック・オバマさんが米国大統領に就任する一方、日本では戦後長期に亘り担当していた自民党から民主党に政権が交代するなど、政治的に大きな変革の年でした。医療では、救急・産科・小児科・中山間地域で明らかになった種々の医療崩壊に対して、これまでの行き過ぎた医療費抑制政策の見直しや財政支援によって歯止め、あるいは改善が図られようとしています。しかし、医師の質の担保(quality control)を謳って制度化された新医師臨床研修制度については、制度前後でどれだけ医師の質を高めたか否かの厳密な検証はなされないまま、小手先だけの改正で継続されています。この制度が副次的にもたらした研修医の大学離れ、地方離れや診療科の偏在については、上記政策をもってしても、その解決を得ることは甚だ困難と考えます。そればかりか、この制度によって医師育成の自律性が失われた結果、自分の生活の質(Quality of my life)を行動規範の第一と考える医師達が日本中を跋扈しているように思えてなりません。彼らが日本の医学・医療の中心を担う時代となったとき、これまで先達が築き上げた日本の医療の品格はどうなってしまうのか、と私は危惧します。

 医師の育成には本人のみならず医学・医療教育者の長い時間を掛けた不断の努力が必要です。マニュアルをすぐ求めたがる人、効率よく簡単に知識・技術のみを欲しがる人は、短期的にはテクニシャンとして人より早く上手に立ち振る舞うことはできるでしょう。しかし、長期的にはメディカル・ドクター(MD)として大成できるとは思いません。当教室の使命の一つは、人間性が豊かで思いやりがあり、人類の福祉に貢献できるような医学・医療を拓くことのできる医療人(MD)を育成することにあります。そのような医療人を目指す若い方に新年の挨拶としてお伝えしたいことを述べます。

 私は医学とは『人間の体と心を科学的に探求し、健康・福祉に役立てる実学』であり、医療の目的とは『人々のために医学を役立てて、人々の日々の日常生活の健康・福祉、ひいては幸福に貢献する』ことにあると思います。学生からの『医師になったら幸福でしょうか?』の質問には、『分かりません。しかし、医学・医療に人生を尽くすことが人生の喜びであると感じる人が医師になれば、これ以上の幸福な生き方はないと思います。』と答えるようにしています。フランス語のエリートeliteの真の意味とは、『自分の利害得失と関係なく他人や物事のために尽くせる人』であり、ラテン語では『神に選ばれた者』という意味だそうです。その意味では、魏徴「述懐」にある『人生意気感 功名誰復論:人生意気に感ず、功名誰か復た論ぜん』という言葉や、慧能の『本来無一物』や夏目漱石の『則天去私』、西郷隆盛の『敬天愛人』にも根底には同じ精神が流れているのだと思います。

 安岡正篤さんの「知命と立命」には、『ひとは与えられた運命に埋没して流され、翻弄される。これが宿命である。それに対して、運命を自分の手で変えようとする生き方が立命である。宿命に生きるか、立命に生きるか、によって人生の醍醐味が違ってくる。』とあります。確かに、医師としての人生は大変です。しかし、大変でない人生が何処にあるのでしょうか。また、医師の人生は一生努力し続けなければならないものと思います。途中で努力を止めたり、逃げたりすることも可能でしょう。しかし、努力すること、それこそが人生ではないのでしょうか。そして、医師としての人生はつらいことばかりで厭になることも少なくありません。しかし、つらい人生にこそ、人生の醍醐味があるのではないでしょうか。

 『寒さにふるえた者ほど太陽を温かく感じる。人生の悩みをくぐった者ほど、生命の尊さを知る。』(ウオルト・ホイットマン「草の葉」)ように、医師が人の生命や運命に大きく関わる以上、その苦しみを頭だけの理解ではなく、心底分かるためには、それなりの数の涙を自分で流さなければならないと思います。長く厳しい苦悩と努力の末に医師としての人生を真摯に生ききることこそが自分の人生の目的であると感じ得たとき、どのような病める人にも心より寄り添える医師となり得るのではないでしょうか。

 変革の時代にあっても、恒に変わらない大事なものが、私達人間の奥底には流れているはずです。人生50年足らずの若輩が若い人に向かって言うことは僭越かも知れません。しかし、今こそ医師としての在り方(実存)が問われている時代は無いと思うのです。これから日本の医学・医療を担っていく若い方に、知識や技術だけでは留まることのない医師としての在り方を心静かに自らに問い直してほしいと思います。
 最後に、苦しいとき支えとなった、高校時代の恩師から教えて頂いた言葉を紹介します。『若いときには若さを振りかざして、運命に向かって生きるほかないのだよ。そうしなければ、深く静かな老年を耐えることもできないのだ。』(倉田百三「出家とその弟子」)

 今年が皆様にとりまして、希望と幸せが満ちあふれる年となりますように、心より祈りまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

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