島根大学医学部整形外科学教室
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トップページ教授室より > 平成31年 年頭所感
教授室より
 平成31年を迎え、年頭にあたりご挨拶申し上げます。

 平成14年に島根医科大学(現島根大学医学部)整形外科学教室の第3代教授に就任してから、今年で17年になりました。本教室は創設からは40年となり、整形外科全領域に亘って教育・診療体制が整備・確立され、若い専攻医も少しずつですが入局してくれるようになって、連携施設の診療体制も充実して参りました。また、小規模ですが新規性の高い臨床研究が医学的に認められ、社会的にもご理解・ご支援いただけるようになってきました。ここまで何とか来ることができましたのも、多くの皆様のご支援・ご指導の賜物と存じ、改めて心より御礼申し上げます。

 さて、近年の日本を取り巻く国際情勢はさらに激動と混沌の様相を増しています。中東では米露介入によって ISIS(Islamic State of Iraq and Syria)は殲滅されたものの、終わりのないシリア内戦や宗派闘争がもたらす政情不安が今なお存在し、欧州ではそれらを逃れる数多の難民と社会の混乱、財政規律第一主義がもたらすEU国内・国家間の経済格差と停滞、さらには英国のEU離脱問題など、今なお流動化しています。

 一方、アジアに目を向けますと、周辺諸国を巻き込む狡猾な中国の一帯一路政策、なし崩し的な北朝鮮の核保有と事大主義的な南北政権の統一の動き、米中覇権争いが表面化した米中経済戦争、ビジネスモデルを変えない中露の経済破綻の危機的状況など、アクターとシアターが瞬時に入れ変わり、全世界を巻き込んだ外交・諜報・軍事・経済(Diplomacy, Intelligence, Military, Economics: DIME)を大きく突き動かしています。このような国際情勢の中、日本国内ではデフレからの脱却が十分でないのに拘わらずマクロ経済が分からぬ財政規律第一主義者によって、弱者に負担の重い消費税率はさらに引き上げられようとしています。江戸時代の新井白石や松平定信らの失敗、昭和の高橋是清の成功と暗殺による経済牽引の頓挫の例を引くまでもなく、現在の財政規律第一主義のEUではその社会に何が現出しているのか、日々見聞しているはずなのに、です。

 さらに、1年半も掛けて悪魔の証明を叫びつづけた国会議員や、莫大な都税と無駄な時間を掛けて市場移転させ、オリンピックのためのインフラ整備を停滞させた都知事、それらを面白可笑しく偏向報道して国民を煽り続けたメディア達は、誰一人一切責任を取らず、安逸をむさぼり今なおその地位にあります。戦後70年を経ても拉致被害者さえ奪還できず、国際法違反でありながら自力救済ができないため実効支配された領土を返還させることもできず、独善的な理想論や他力本願的な無責任論、および偏向した煽動報道が相変わらず繰り返されています。果たしていつまで敗戦国を続けるつもりなのか、このままでは日本は亡国となってしまうのではないのかと、憤懣やるせない思いをもつのは私だけではないと思います。

 さて、人の生と死に関わる私たち医療人は、人間は時間を意識せざるを得ない存在(時間的存在)であり“時間の重み(重要性)“を痛感しています。死という普遍的に誰しも逃れられない終点を覚悟した人がどのように生きていったか、生きているかを日々見ている、あるいは見てきたからです。ここでは、医療を目指す若い人たちに向けて、時間的存在として『生きる』ことの意味を考えたいと思います。

 『私』は、どうして存在しているのだろう、存在とは何だろうか、と真剣に悩む若い人がいますが、存在している以上、悩んでいても仕方がありません。存在論については高邁な哲学者に任せることにして、それ以外の人は、たまたま人間として生まれた以上、生の終わり、すなわち死までは、ただ単に存在するだけでなく、『私』の存在意義が有るように生きるべきです。死への存在 (“Sein zum Tode”- Martin Heidegger, “Sein unt Zeit”, 1927)、“実存的存在(Dasein)として生きる”には?などと難しく考えなくとも、自分に与えられた時間(人生)を意味があるように生きるべきです。ただし、その意味が自分にとってのみ、豊かさや幸せを示すものではあってはなりません。人は生まれたときから誰かのお世話になって育つのです。そして、大人になっても人は一人では生きることはできません。そもそも、生まれる前から今のあなたが存在するためには、氷河期や飢餓、戦争を乗り越えた数多の先祖や人々の犠牲がなければなりません。そして、あなたに受け継がれた命はあなたの子孫に受け継がれるのです。そのような過去・現在・未来を考える視点は人間にしか有りません。

 医療人を目指しているあなた方はその多くの人々が関わる“時間の重み“をすでに自覚されていると思います。自分がここまで育ててくれたご家族だけでなく、地域の人々、そして日本のために自分に与えられた才能・知識・技能を役立たせることは当然のことです。さらに、人類の幸福や福祉に貢献できるように、先達が残していった業績や遺産を引き継いでさらに進歩・進化させ、後生に伝えて行かなければならないのです。これは人間が他の動物が異なるところです。何万年経っても変わらない人間以外の動物社会と、人類がこれまでに創造してきた文化・文明を比較してみれば分かることです。例えば、コンピュータは、20世紀では部屋にも入り切らない大きな装置で真空管を何百とつないで長い時間かけて普通の人には分からない言語で作動していました。これが、今やPC(personal computer)となり個人が持つ道具となりインターネットの普及で世界的ネットワークができ最小化し、さらに21世紀、人工頭脳(AI)が発達するまでに至り、医療分野でも診断や治療法の決定に大きな役割を果たすようになってきました。

 このように、先達の肩の上にのって(“standing on the shoulders of giants”- Sir Isaac Newton,
“Letter from Isaac Newton to Robert Hooke”, 1676)、私たち人類は日々を豊に幸せに暮らす新たな方法・術を作り出すことができ、さらにそれに何かを加えて次世代に渡すことができます。その積み重ねによって、今の進歩・発達した文化・文明があるのです。無論、その中には人類の存在そのものを危うくするものも生んできたのも事実です。しかし、それを人々の幸せのために利用する知恵も人間には備わっています。医学・医療を目指す若いあなたがたは、現在の医学・医療を一歩でも前に進めて、多くの人々の健康・福祉に貢献する使命を帯びているのです。そのために、自分に与えられた時間を有意義に使って貢献することで、自分だけでなく自分以外の人々のためにも、この限られた人生を意味あるものにしてほしいと切に望みます。

 今年、今上天皇陛下は御譲位され、『平成』は本年4月30日で終わり、本年5月1日から新しい元号となります。645年から始まる元号『大化』から今まで、日本は独自の暦を使用し、日本独自の文化・文明を築いて、日本の“国となり(国柄・国体)”を形成してきました。欧州諸国が国民国家となる1100年も前から日本は国民国家であって、キリスト教がなくとも奴隷制度はなく、人権は保障され民主主義が行われてきた国なのです。古くは白村江の戦い、文永・弘安の役などいくつかの外的脅威によって日本の存立が危ぶまれたことがありましたが、献身的な先祖・先達の尽力によって乗り越え、日本の存立は守られてきました。幕末、文明国ではないと欧州列強から不平等条約を押し付けられ、半文明国の汚名を必死の思いで雪いで文明国と認められたのも、まさに血のにじむ様な多くの先祖・先達の努力と犠牲なくしてはありませんでした。しかし、先の太平洋戦争で敗北を来たした後は、日本はGHQのWar Guilt Information Program (WGIP)の軛から今なお逃れることはできないままです。激動と混沌の様相を深くしている国際情勢の中、日本の存立が危ぶまれている今、現代を生きる人間だけが日本の未来を決めて良い訳はありません。歴史(history)には民族・国家が共有する物語(story)がなくてはなりません。これまで先祖・先達が営々と築いてきた世界一長い歴史をもつ日本をその国となり(国柄、国体)を保ちつつどう存立させて後生に伝えていくか、新元号となる今年、われわれ現代人はその“時間の重み”をしっかり自覚しつつ真剣に考えなければならないと思います。

 私は当教室を主宰しながら、若い医師らと共に、臨床医として、研究者として、また、教育者として、引き続き日本の医学・医療に貢献して参りたいと考えております。どうか、今後とも皆様の温かいご支援とご指導をお願い申し上げます。

 最後になりましたが、皆様にとりまして本年が幸せ多き年でありますよう心より祈りまして、年頭の挨拶とさせていただきます。
                                         平成31年1月
                                          内尾祐司

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