島根大学医学部整形外科学教室
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教授室より
 令和2年年頭所感

 令和2年を迎え、年頭にあたりご挨拶申し上げます。
 平成14年に島根医科大学(現島根大学医学部)整形外科学教室の第3代教授に就任してから、今年で18年になりました。人で18年(歳)といえば、高等学校を卒業して、いよいよ人生の進路を決める時期です。昨年、当教室は第11回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会学術集会を主催させていただき、無事終えることができました。このような学会運営を通じて、つくづく人生は多くの方々に支えられているものであることを実感しました。本会にご協力・ご支援にいただいた多くの皆様に、感謝してやみません。
心より厚く御礼申し上げます。

 さて、平成から令和に御代代わりしても、近年の日本を取り巻く国際情勢はますます厳しくなり、安閑と座視できる状況にはありません。国内ではデフレから脱却しないまま、財政規律第一主義者によって消費税が8%から10%に引き上げられ、日本経済の大失速が懸念される中、日本周辺国による周辺接続海域への無断侵入は続き、今なお拉致被害者を取り戻すことができないままです。また、米中経済戦争は経済不安・軍事衝突の懸念を加速させる中、新型コロナウイルスは世界的に蔓延し、とりわけ朝鮮半島の安全保障にも影響を与えています。日本は、世界のさらなる外交・諜報・軍事・経済(Diplomacy, Intelligence, Military, Economics: DIME)の大吹雪に巻き込まれ、ホワイトアウトの状態にいるかのようです。このような中、為政者は果たして、的確かつ強靱な離脱方法を示しているといえるのでしょうか。
 一方、国内では1年半も掛けて悪魔の証明を叫びつづけた国会議員は、モリカケからサクラに題目を変えても、意味のない質問と権力闘争にしか見えない罵詈雑言を国会内外で吐き続け、血税と時間を無駄にするデマゴーグと化しています。また、メインソーシャルメディア(MSM)は、国民が知るべき情報を意図的に報道しないどころか、アンフェアに切り取った言葉・写真・動画を用いて、歪曲した非生産的偏向報道・印象操作を行い、国民を煽り続けています。戦後、日本においてこれほど国内外における不安定要素があったでしょうか?日本の存立が危ぶまれていると思うのは、私の思い過ごしでしょうか。

 ともすれば、現代のわれわれ日本人の中には、「私」が生きているのは「今」でしかないので、「今」がよければよい、「私」だけがよければよい、という人がいますが、私はそうは思いません。今の「私」が存在しているためには、「私」につながる多くの人々がそれぞれの時代を懸命に生きてきたという事実があったからであることを忘れてはなりません。そして、今の「私」も未来のだれかに繋がる以上、今のこの時代を懸命に生きなければならないのです。その意味で、「今」を生きることは、「過去」や「未来」にも繋がることであり、しっかりと責任をもって有意義に生きなければならないのです。そのため、「私」だけの生・命ではないのです。そして、その生・命の大切さは、「私」だけでなく、「私」以外の人にも同様にいえます。その意味で、「私」は「今」がよければよい、というものでもなく、「私」だけがよければよい、というものでもないのです。

 ここでは少し長くなりますが、日本における時間としての歴史と伝統、そしてそれらが紡がれた日本という風土1)の観点から、日本の存立について考えたいと思います。
 文明が歴史を持つためには、時間を記載する文字と直進する時間の概念がなければなりません2,3)。人間界と天上界とが輪廻転生する古代インドや、世界の一瞬一瞬が神の創造にかかっているイスラムでは、過去・現在・未来の因果関係はありません3)
 華夷秩序の中華は、独裁の古代と、殺戮の中世をくりかえしてきました4)。剥き出しの権力志向を、孔子の建前でかくし、裏では韓非子の権謀術数に磨きをかける、それが、今も変わらぬ彼らの行動原理です4)。中国5千年といわれる歴史も、日本に来た清国留学生が、当時の日本の紀元2600年の歴史に対抗して創作したもので、「人民」も「共和国」も、日本人が作った言葉です4)。そもそも3/4は彼らが蛮夷と呼ぶ北方民族の歴史です。また、春秋の筆法では、誰が極悪人か、それとも尊皇かを後世の人間が厳しく査定し、善悪は歴史が自ずから証明されるとされ、司馬遷による正統史観では、禅定とは勝った方に天命が下りたとする結果主義です3)。すなわち、結果が全てで、結果が悪ければ、墓は暴かれ、屍は鞭打たれ、名誉回復はないのです4)。したがって、彼の地における歴史とは、権力者の正統性を示す後付けの政治道具にすぎません。
 一方、今の欧州では、自分たちを古代ギリシャ・ローマの後裔だと強弁していますが、中世まで彼らに歴史はありません。その後、ローマ教皇が最高権力者となった領地では、領民は領主(王様)の奴隷であり、生殺与奪の権利は教皇・領主にしかありませんでした。神と悪魔の二元固定世界観と宗教原理主義が欧州内・外の敵対勢力(ほとんどは無辜の人々)に、絶えずおただしい血を流させてきました3)。ニーチェは「キリスト教は大衆のためのプラトニズムである。」といって、二元固定世界観を超越する哲学、いわば反哲学を提唱し、欧州の二元世界観を克服しようとしますが、果たせず晩年は狂気の中にいました5)。日本に遅れること1100年後に、欧州でも国民国家が出現しますが、非キリスト教国で非文明国とレッテル張りされたアフリカ・アジアの国々は、つぎつぎと植民地化されていきます6)。さらに、もともとゾロアスター教由来であった、終末論と千年王国の究極の二元論は、マルクス主義にも利用され、全世界を不幸にしました3)
 第二次世界大戦後、国際連合は戦争を禁止ましたが、国際法に基づく戦争6,7)がなくなる一方、国際法に基づかない紛争やテロが各地で勃発し、解決の糸口が見いだせないまま今なお続いています。1993年、サミュエル・ハンチントンは、「文明の衝突」で、冷戦後の8つの新しい文明の対立軸を示して、これらがもたらす多発テロやイスラム国Islamic State:ISの出現を予見しました8)。8つの文明の中で日本は8番目の独立した文明として位置づけられています8)

 日本は、令和元年5月1日から元号が“平成”から“令和”となり、令和元年10月22日に、今上天皇陛下は新天皇となられたことを国内・外に宣明されました。今上天皇陛下がご即位あそばされて第126代となりますが、日本は世界の興亡史の中で一度も途切れることなく続いてきた世界最長不倒の唯一の国です。
 その日本の歴史と伝統は、天皇と国民の紐帯・絆によって支えられてきました9,10,11)。新古今和歌集には仁徳天皇の御製(ぎょせい)があり、「高き屋に登りて見れば煙立つ 民のかまどは にぎはひにけり」と詠まれています。仁徳天皇の頃からすでに日本国民は奴隷として搾取される対象ではなく、大御宝(おおみたから)として大切にされてきたということです12)。ちなみに「奴婢」があったではないかと反駁する人が居るかもしれませんが、これは「やつこ・はしため」で住み込みの下男下女のことで、奴隷ではありません12)。他国での奴隷は売り買いされる物であって人間とは見なされていません。欧州では、領民には人権はないので、神であるキリストの名の下に神が人権を与えるのです。だから、キリスト教信者でなければ人権はなく、蹂躙され文明を破壊されても文句はないだろうという考えなのです。一方、日本では仁徳天皇の時代から国民は大御宝とされ、大切にされていたのです。欧米は“人権”、“民主主義”を太平洋戦後、あたかも日本が非文明国であったかのように押しつけましたが、彼らの国が成立する1000年以上前から、すでに日本は人権をもつ民主国家(君民国家)であったのです。
 昭和天皇陛下は、仁徳天皇の民のかまどの話を幼いころから聞かされて、戦後バラックで暮らしていた人々が家を持てるようになった東京オリンピックのころまで、防空壕でお暮しになりました。大喪の礼のときには、時の竹下首相が宮中に入って、「ここは物置ですか?」と訊いたところが、実は昭和天皇陛下のご寝所だったといいます11)
 平成上皇・上皇后両陛下は、ご在位中、雲仙普賢岳の噴火、阪神淡路大震災、東日本大地震の際には、これら大災害に見舞われた犠牲者の御霊(みたま)に深い祈りをささげられた後、被災者の集まる避難所に進まれました。そして、どんな時もスリッパも履かれずにジャンパーも同じで、お膝がお悪いのに、お膝を折って被災者と目と目をしっかり合わせてお声をかけられ、その心を映しとられ、一体になろうとされました11)
 これが「シラス(知ろしめす)」なのです。古事記にあるように、「天照大御神、高木神之命以使之。汝之宇志波祁流葦原中国者、我御子之所知国」(天照大御神、高木神の命もちて問いに使はせり。汝の宇志波祁流(うしはける)葦原の中つ国は、我が御子の知らす国ぞ。)大国主の命が、うしはける、支配する葦原中つ国を、天照大御神の御子(みこ)がシラスのです。シラス:「治(し)らす」とは、「知る」の尊敬語の「知らす」と同じで、「知る」という動詞に尊敬の意を表す「す」のついた語で、天の下を御統治されるという意味です。天皇が、民や神々の心を知り、それを鏡に映しとって、自己と同一化させ、自らを無にして治めることなのです12,13,14,15)。鏡(か・が・み)から「我(が)」をされば「神(かみ)」となりますが、これが三種の神器として代々皇統にひきつがれている所以であり16)、これこそが日本の国体・国柄なのです。
 そして、今上天皇陛下も、即位礼正殿の儀でのおことばにもあるように、「国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓います。」と宣明されています17)。憲法でわざわざ日本国民統合の象徴であると規定されなくとも、幾多の存亡の危機に対峙しながらも昔から、天皇陛下は、大御宝である国民のために尽くされる一方、天皇陛下のもと、国民は力を合わせて国難を克服してきたのです。海外でも賞賛される国民性や文化は、日本国民が一体となって連綿と築き上げてきた、この天皇陛下との絆の長い歴史と伝統の上に立つものです。その日本の長い歴史と伝統の中では、現在生きている人間は少数派であるという謙虚さがなければなりません。今一度、私たち日本人はこの歴史と伝統を顧み、日本の存立について真摯に考えなければならないと思います。
 日本最古の歴史書、古事記の太安万侶の并序(序に合わせて)には、「雖歩驟各異 文質不同 莫不稽古以繩風猷於既頽 照今以補典ヘ於欲絶」(代々の政治には、馬の歩みに歩行と疾走があるように緩急があり、また文に書かれたものと実態が必ずしも同じとは言えないとはいえ、古来我が国では、古を省みることで世の道徳が崩れることを直し、歴史によって今の時代に照らして、人の道が絶えようとしていることを補わないということはありませんでした。)とあります12)。つまり、古事記が成立する前から、私たち日本人は、無くしてしまった人の道を絶えず歴史と伝統から発見することで、唯一無二の日本の歴史と伝統を紡いできたのです。

 人間は、ひととひとの間と書く様に一人では生きることができません。今、「私」がここにいるためには、日本という最長不倒の歴史と伝統と、それを紡いできた日本という風土で暮らしてきた、幾多の日本人がいたからこそです。それなのに、さも自分一人で生きて来られたような顔をして大手をふって廊下を闊歩する若い人の姿をよく見かけますが、私から見ると何とさもしい、想像力のない輩だとしか思えません。苟も、人の生・命に対峙する医師となるならば、あるいは医師であるならば、自分の至らなさを常に顧み、独善的にならないように客観的に真摯に反省し、未来にも責任を持ち、日々克己しなければなりません。そうあるならば、廊下を無恥に無闇に闊歩したりはできないはずです。一事は万事であるからです。

 University of Rochesterの内科学教授 Professor William L Morganと精神医学教授George L Engelの共著、“The Clinical Approach to the Patient (W.B. Saunders Co. 1969)” から引用します18)

The Qualities and the Ideal Physicians
He is first and foremost humane.
He is constantly observant.
He uses a systematic approach.
He uses reason in all his actions.
He is aware of the limitation of his own knowledge and knowledge in general.
He respects the informations that comes from the patients.
He is a perpetual student.


これを訳された、小野啓郎先生(故 大阪大学名誉教授)は、珠玉の言葉を遺されました。

とりわけ君がいつくしみ深い人であってほしい
診察というのは不断の観察です
きまぐれや思いつきでなく、治療には体系を忘れないこと
基本には忠実でなければなりません
言行にはつねに一貫した道理をもとうではありませんか
知識?一体、何をどこまで君がわきまえているのでしょうか
君が謙虚に耳を傾けるものといったら、患者さんの訴え以外に、何がありますか?
なによりも大切なこと、それはいくつになっても学ぶ気持ちです


 私は当教室を主宰しながら、今後とも若い医師らと共に、臨床医として、研究者として、また、教育者として、引き続き日本の医学・医療に貢献して参りたいと考えております。どうか、今後とも皆様の温かいご支援とご指導をお願い申し上げます。

 最後になりましたが、皆様にとりまして本年が幸せ多き年でありますよう心より祈りまして、年頭の挨拶とさせていただきます。

令和2年2月
内尾祐司



参考文献
1) 和辻哲郎.風土、岩波文庫、1979.
2) 岡田英弘.歴史とはなにか.文春文庫、2001.
3) 宮脇淳子.日本人が教えたい新しい世界史.徳間書店、 2016.
4) 倉山 満.嘘だらけの日中近現代史、扶桑社新書、2013.
5) 木田 元.反哲学史.講談社学術文庫、2000.
6) 倉山 満.国際法で読み解く世界史の真実.PHP新書、2016.
7) 倉山 満.ウェストファリア体制.PHP新書、2019.
8) サミュエル・ハンチントン.文明の衝突.集英社文庫、2017.
9) 小名木善行.昔も今もすごいぞ日本人、彩雲出版、2013.
10) 倉田 満、おかべたかし.日本史の英雄、扶桑社、2016.
11) 青山繁晴.危機にこそぼくらは甦る.扶桑社新書、2017.
12) 小名木善行.ねずさんと語る古事記 (壱)、青林堂、2017.
13) 竹田恒泰.天皇は本当にただの象徴に墜ちたのか、PHP新書、2018.
14) 伊藤哲夫.明治憲法の真実.致知出版社、2013.
15) 倉山 満.帝国憲法の真実.扶桑社新書、2014.
16) 竹内睦泰.正統竹内文書の謎、2013.
17) 即位礼正殿の儀.https://www.youtube.com/watch?v=W1MiSGGPDEc
18) William L. Morgan, George Libman Engel. The Qualities and the Ideal Physicians, W.B.Saunders Co., 1969.

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