病院長 椎名 浩昭
DiMCOC(Disaster Medical Crisis Operations Center)は病院長直属の組織で、災害医療・危機管理センターです。本年の3月以降、新型コロナウィルス感染症患者の急増により大阪での医療体制が逼迫する事態に陥ったことはご承知の通りです。本院からも五人の看護師を大阪に派遣いたしました。この感染拡大は関西だけでなく全国に波及しつつあります。各地で猛威を奮っているコロナ変異株の特徴は、感染力が強く重症化しやすいことです。すなわち、コロナ感染症は単なる感染症ではなく、「災害」であるとの認識を共有することが重要です。初期対応が遅れると事態の収拾は著しく困難となり、医療は逼迫し大阪の状況が示すように、医療崩壊とまで揶揄される事態となります。幸い、島根県の状況は関西の主要都市に比較すると軽いものではありますが、島根県でも感染拡大や蔓延が危惧される状況に陥る可能性は十分にあります。ではなぜ、島根県でコロナ感染症の重症例が少なく、死亡者がいないのでしょうか?
ご存知のように島根県は現在コロナ感染症での死亡者を出していない唯一の県です。島根県では、当院のDiMCOCが中心となっていち早く、コロナ感染症を「災害」として捉え、患者さんの状況把握と入院調整を「島根県広域入院調整本部」とともに一元化して管理して参りました。高規格ドクターカーと防災ヘリの運用に加えて、迅速な患者の状態把握ならびに重症度に応じた適切な入院施設の調整を行うことで、各病院の機能を可能な限り維持しながらコロナ診療にあたることを可能とさせました。このような診療体制を島根県立中央病院とともに構築したことが大きな要因であると私たちは考えています。この取り組みはモデル事業として、国からも認定されています。島根県でコロナ感染症が少なかったのは偶然ではなく、地域における大学病院の役割とそのあるべき姿を行政を交えて議論しつつ、機能強化の観点から地域の病院ととも密に連携した結果の賜物と自負しております。
災害が生じた場合、その初動に関わるのがDiMCOCです。災害医療に携わり、いち早く情報を収集し適切に行動する、それがDiMCOCであり、病院長直結の危機管理センターなのです。そのためには、24時間緊急対応し、災害時の受入拠点として、傷病者の搬送や物資等の輸送を行える機能や災害派遣医療チーム(DMAT)の派遣要請に迅速に対応することが求められます。また、災害はいつおこるか予想することが困難である以上、日頃より災害に対する危機管理を行うことが必要です。被災後の診療機能がいち早く回復するには、BCP(業務継続計画)を整備し、BCPに基づいた被災を想定した研修・訓練を実施することが必要となります。このように災害時の拠点となって行動する当センターは、島根県の地域医療のみならず、近隣地域の医療体制の確保・維持にも大きく貢献しています。万一の災害時にも安定した医療の提供ができるようこれからも尽力していく所存ですのでよろしくご指導のほどお願い申し上げます。
災害医療・危機管理センター センター長 渡部 広明
近年、毎年のように大きな自然災害が発生しています。大規模地震、津波、大型台風被害、洪水・水害、火山災害などさまざまな災害が我が国を直撃しています。こうした自然災害によって医療を必要とする人々が増えているのも事実です。またこの災害列島日本において災害時、我々医療機関はどのように対応し、そしてどのようにそれに備えるのかが問われる時代となりました。こうした中、島根大学医学部附属病院では、自然災害をはじめとした災害にともなう医療展開を迅速かつ適切に実施できる体制を強化すると共に、様々な局面で発生しうる事態に迅速に対応する危機管理の視点から、これらを専門的に行う部署として、「災害医療・危機管理センター」(Disaster Medical Crisis Operations Center (DiMCOC)を設置しました。DiMCOCの役割は、平時からの災害準備と教育・訓練、災害時の災害医療対応と指揮、医療に関わる危機管理を主な役割としています。現在、災害拠点病院では災害時における病院機能を維持するため、BCPを作成して災害に備えることが求められています。平時から災害に備えた業務を専門的に行う部署が存在することは重要であり、こうした役割は病院の機能維持に欠かせないものといえます。また災害時に速やかに病院機能を回復し、必要とされる医療を展開できる体制を構築することは「防ぎ得る災害死」を減らすことにもつながります。そのためDiMCOC会議メンバーを病院の意志決定にかかわるスタッフで構成し、実働としてはDMATをはじめとした災害医療の専門医等をおくことで運営に当たっています。
DiMCOCでは、自然災害や病院内で発生しうる緊急事態に即時対応できる平時からの体制整備と発生時の初動を専門的観点から遂行する部署として様々な活動を行っています。職員への迅速な災害情報や災害モード情報の提供を目的にホームページを開設しました。有効に活用いただければ幸いです。