公開日 2021年03月31日
◆本件の概要
島根大学医学部眼科学講座の谷戸正樹教授・海津幸子助教らの研究グループとウシオ電機株式会社は、222 nm-UVC殺菌ランプの眼への照射に対する安全性動物試験(ラット)を実施し、角膜炎を引き起こさない222 nm-UVCの最大照射量(暴露限界値)が、3,500から5,000 mJ/cm2の間にあることを示しました。222nmの国際的な安全性基準(TLV, 許容限界値)は22 mJ/cm2とされていますが、今回の研究結果から、TLV値の100倍以上大きい照射量でも角膜障害は発生しないと推測されます。また、222 nm-UVCの組織深達度は極めて浅く角膜上皮の最表層のみに到達すること、角膜最表層の細胞は生理的な代謝サイクルの過程で12時間以内に剥がれること,が222 nm-UVCの安全性のメカニズムであることを明らかにしました。これらの成果を2021年3月22日付でPhotochemistry and Photobiology誌に発表しました。現在、ACGIH*は, UVC領域のTLVを50年ぶりに改訂する作業を進めています。
*ACGIH: American Conference of Governmental Industrial Hygienists , アメリカ合衆国産業衛生専門官会議の略。ACGIHが勧告する,TLV(Threshold Limit Values, 許容限界値)が,紫外線などの非電離放射線の人体被爆の安全性基準として最も普及しており,日本産業規格でもこの値を引用している。 UVC領域のTLVは長い間,1970年代前半に行われた実験結果を参考に設定されて来た。
◆研究の意義
新型コロナウイルス感染症は,飛沫感染,接触感染により伝播すると考えられており,エアロゾルによる伝播の可能性も疑われています。従来行われている消毒剤を用いた清拭による方法では,空気中や表面が平坦ではない機器(キーボードなど)ではウイルス除去が困難です。そのため,紫外線などの非接触型ウイルス不活化技術に注目が集まっています。島根大学医学部附属病院では,2019年7月から,救急外来,感染症病棟,眼科外来などに222nm紫外線照射装置を設置し,ウイルス対策を行っています。ACGIHの222nm紫外線TLV値が引き上げられることにより,222nm紫外線ランプを用いた新型コロナウイルスへの感染対策,特に有人環境での空気・機器表面の殺菌・消毒への効果増強が期待されます。本研究成果に加えて,神戸大学皮膚科の研究グループが222nm紫外線の皮膚への安全性の確認を行っています。
◆発表論文
著者:Sachiko Kaidzu, Kazunobu Sugihara, Masahiro Sasaki, Aiko Nishiaki, Hiroyuki Ohashi, Tatsushi Igarashi and Masaki Tanito
論文タイトル:Re‐Evaluation of Rat Corneal Damage by Short Wavelength UV Revealed Extremely Less Hazardous Property of Far‐UV‐C
雑誌名:Photochemistry and Photobiology (https://doi.org/10.1111/php.13419)
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◆本件の連絡先
島根大学医学部眼科学講座 海津 幸子(Sachiko Kaidzu)
TEL:0853-20-2284 FAX:0853-20-2278 MAIL: kecha@med.shimane-u.ac.jp