【ニュースリリース】既存の高血圧薬が精神疾患に有効である可能性を発見

公開日 2021年04月13日

  精神疾患はストレス、免疫異常、代謝異常、遺伝子異常など様々な要因によって引き起こされると考えられています。疫学研究によって新生児期の遺伝的若しくはその他の原因によるビリルビン代謝障害(新生児黄疸)によって起こる脳神経機能症障害(ビリルビン脳症)もまた、精神疾患発症リスクを増大させることが報告されています(Dalman 1999, Maimburg 2008, Wei 2015, Miyaoka 2000, Amin 2019)。ビリルビン脳症は重度の場合、脳性麻痺や難聴の原因になることから、新生児検査で血中ビリルビン濃度が高値の場合、光線療法などが行われています。
 近年、軽度のビリルビン脳症であっても、注意欠陥多動症(ADHD)や統合失調症の発症リスクになることが報告され、Bilirubin Induced Neurological Dysfunction: BINDという新たな疾患概念が提唱さています(Shapiro 2005)。遺伝的ビリルビン代謝障害は日本人の5%前後で認められることから、日本においてもBIND患者は潜在的に多いのではないかと考えられます。しかしながら、BINDの脳病態が詳しく解っていないため治療法が確立していません。

 今回、島根大学医学部 精神医学講座の三浦章子助教、土江景子研究員、免疫精神神経学共同研究講座の大西新特任教授((株)RESVO CEO&CTO兼任)を中心とする研究チームはBINDモデル動物(Gunn rat)の脳内においてセロトニン神経伝達が過剰になっていることを世界で初めて明らかにしました(図1)。更に、セロトニン伝達の阻害作用をもつ高血圧治療薬(ケタンセリン)を低濃度皮下に投与することでモデルラット特有の行動障害を改善させることが出来ることを発見しました(図2)。ケタンセリンは海外において高血圧治療薬として流通しており、安全性は確認されている化学物質です。今回の研究では血圧に影響を与えない程度の投与量でも十分に行動障害を改善することがモデル動物で確認できていることから、早期の臨床応用が可能ではないかと予想されます。本研究成果は2021年3月31日 にNature Publishing Groupが発行する小児科専門誌Pediatric research (online) で発表されました。

 

◆掲載論文

Miura S, Tsuchie k, Fukushima M, Arauchi R, Tsumori T, Otsuki K, Hayashida M, Hashioka S, Wake R, Miyaoka T, Inagaki M, Oh-Nish A. Normalizing hyperactivity of the Gunn rat with bilirubin-induced neurological disorders via Ketanserin. Pediatric research (https://www.nature.com/articles/s41390-021-01446-1)

 

図1  
                                                                                 

 

図2

Ketanserin(ケタンセリン)を皮下に投与するとオープンフィールドテストににおいて観察されるBINDモデル特有も行動異常が改善。(+/+);正常ラット(j/j);BINDモデルラット S.C; 皮下投与

 

論文の詳細はこちら(英文)

 

◆本件の連絡先

島根大学医学部 免疫精神神経学共同研究講座 特任教授 大西 新 (おおにし あらた) 

電話:0853-20-2262 Fax:0853-20-2260

e-mail:information@resvo-inc.com