島根大学医学部整形外科学教室
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トップページ研究内容 > 診療・研究グループ > 股関節
研究内容
診療・研究グループ
上肢(肩・肘・手) 脊椎脊髄外科 スポーツ
膝関節 足・足関節 腫瘍
股関節

助教 門脇 俊

私たちは赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年代にわたる股関節疾患を扱っていますが、その中で比較的患者さんの多い疾患について取り上げてみます。

発育性股関節形成不全症

 発育性股関節形成不全症は生下時に関節包内で大腿骨頭が寛骨臼から逸脱した状態で、かつては先天性股関節脱臼と称されていました。しかし必ずしも全症例が生下時から脱臼しているわけではなく後天的な要因からも脱臼を生じることがわかっており、発育性股関節形成不全症と呼ぶのが一般化しています。
わが国での発生頻度は1970年代までは全新生児の約1%と比較的高率でしたが、乳児股関節検診事業や親への啓発、生活指導によってその発生率は0.3%程度まで減少しました。乳児検診時に一次検診が行われ、詳しい検査が必要とされた場合は各都道府県で指定された二次検診施設に紹介されますが、島根県東部では当院が指定されています。当院の二次検診では超音波検診によるGraf法によって診断を行っており、脱臼の有無から形成不全の程度まで評価が可能です。股関節形成不全と診断された児に対しては、年(月)齢や形成不全の程度に応じて装具療法、牽引療法、または手術療法を行います。


超音波検査の様子


先天性股関節脱臼予防パンフレット
(クリックするとpdfファイルが開きます)



変形性股関節症

 股関節の疾患で最も多いのが変形性関節症です。関節部分の骨の表面を覆う軟骨が摩耗して痛みを生じるようになり、動く範囲が狭くなっていきます。そのためひどくなると歩行時に足をひきずるなど日常生活にも支障をきたすようになります。原因として単に加齢に伴って軟骨が摩耗するものを一次性関節症と呼びますが、わが国では全体の1〜2割にすぎず、多くは幼少期の発育不全に伴う二次性股関節症です。いわゆる先天性股関節脱臼に代表される発育性股関節形成不全症の児がそのまま成長すると、股関節の屋根の部分が小さいままで大人になり、体重を受ける部分が狭いために軟骨の摩耗が早く進行します。
治療は保存療法と手術療法があります。病初期の関節の変形が軽度なうちは筋力訓練やストレッチを中心としたリハビリテーションが有効です。また、概ね40歳以下の若年で股関節形成不全のある方は骨盤の骨を切って動かすことで屋根を大きくしたり、関節の適合性を改善することで将来的な軟骨の摩耗を防ぐ手術が適応となる場合もあります。
 変形が進行し、リハビリテーションや鎮痛薬の内服では痛みが十分に取れず、日常生活に支障がある場合は手術治療として人工関節置換術を考慮します。人工股関節置換術とは、傷ついた股関節の損傷面を取り除いて、人工関節に置き換える手術です。人工関節は、金属製のステムとボールとソケット、そしてソケットの内側にはめ込む超高分子ポリエチレン製のライナーでできています。人工股関節置換術は日本国内で40年以上前から行われている手術で、手術件数は年々増えており現在では年間7万件以上にも上ります。当教室の手術件数も年々増加しており2019年度は89件を実施しました。股関節周囲の筋肉へのダメージを減らす手術手技の導入や、手術支援コンピューターを用いた正確な手術といった当教室の人工股関節手術の特徴についてはのちほど別項に詳しく記載しておりますのでご参照ください。
 当教室の人工股関節手術では術翌日には車いすでトイレに移り、術後2-3日には歩行訓練を開始します。術前の状態や年齢にもよりますが、手術後3-4週でほとんどの方が自力で歩いて退院できます。





「あきらめないで!股関節のトラブル」りびえ〜るより転載
(クリックするとpdfファイルが開きます)


大腿骨頭壊死症

 何らかの原因で大腿骨頭への血流が途絶えて壊死(組織が死ぬ)をきたす病気です。ステロイド薬を使用している方、アルコールを多く飲む方に多いとされていますが、発症メカニズムが明らかとなっておらず、厚生労働省によって特定疾患に指定されています。一度壊死が生じた部分に骨が再生するには長時間を要し、その前に荷重に耐えかねて潰れてしまうと強い痛みを生じます。壊死範囲がごく小さい場合は潰れる危険性が少ないため経過観察のみで構いません。範囲が中等度以上の場合は潰れないように手術で大腿骨頭を回転させたり、向きを変えたりして健常な部分に体重がかかるようにします。壊死の範囲が骨頭全体に及ぶような広範囲の場合、すでに潰れてしまっている場合には人工関節置換術の適応になります。




Topics より正確に、より侵襲の少ない人工股関節置換術

 人工股関節手術の目的は股関節の痛みを取り除き、関節機能を回復させることで歩行をはじめとする日常生活動作の不自由をなくすことです。これを達成するためには人工関節を正しい位置や角度に正確に設置すること、手術による治療部位の損傷(侵襲)の程度をなるべく小さくし、患者さんの体にかかる負担を少しでも軽くすることが重要です。
 人工股関節の設置位置は術後に関節の動く範囲や筋力、そして合併症の危険性や耐用年数にまで影響するため、理想的な位置・角度で設置することが求められます。しかし、手術中に見える範囲の情報から術者の感覚だけで骨盤や大腿骨へ正確に人工関節を設置することは不可能です。そこで当科ではコンピューターによる手術ナビゲーションシステムを導入しています(図1)。手術前に撮影したCT画像をコンピューターに取り込んで3次元で理想的な手術計画を行っておきます(図2)。そして実際の手術の際にはコンピューターが患者さんの骨と手術器具の位置関係を計算し人工関節の位置や角度がリアルタイムに画面に表示されるため、術前に計画していた理想的な位置や角度へ正確に設置することができます(図3)
 次に手術部位の侵襲については、人工股関節置換術がはじまった当時は股関節を覆う筋肉(中殿筋)を骨ごとはがして股関節を露出する方法が主流でした。これは股関節全体が良く見えて手術がしやすい一方で、股関節を動かすための中殿筋を傷めるために術後にも跛行(足をひきずる)が残ることが問題でした。そのため手術方法が改良されていき、現在では中殿筋を切ったり剥がしたりせずに、避けるだけにして傷つけないような手術が行われています。このように筋や腱を温存する手術を最小侵襲手術(MIS)といい、術後の痛みが少なく、機能回復にも有利なため入院期間の短縮にもつながります。しかし筋肉や腱を切らずに避けるだけのために手術時の視野が狭く、人工関節を正確に設置するための難易度が高くなります。そのため当科では手術用ナビゲーションシステムを利用して狭い視野の中でも人工関節を正確に設置できるように努めています。MIS人工股関節手術は関節の変形が高度である症例や、骨セメントを用いる症例などでは狭い視野で手術をすることで合併症を起こす危険性が高くなるため、症例に応じて適応するかどうかを判断して安全な手術法を選択するようにしています。
 

図1 手術用ナビゲーションシステム
右のアームの先にあるスキャナーが患者さんと手術機器に取り付けた赤外線装置を検出して位置情報を計算し、左上のモニターにその情報がリアルタイムに映し出されます。



図2 手術前の設置計画
CT画像を3次元に再構築しコンピューター上で手術のシミュレーションを行います。患者さんごとの体格や姿勢を考慮して最適な位置や角度を決定しています。



図3 手術中のナビゲーション画面
青い線が手術前に計画した位置・角度で赤い線が実際の位置・角度を示しています。これを見てリアルタイムに調整しながら人工関節を設置します。


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