02_国内初!Acute Care Surgery 講座

外傷診療の体制構築と人材の養成が急務渡部教授

  医学部では全国初となる「Acute Care Surgery(アキュート・ケア・サージェリー)講座」及び、専門的な外傷診療を行う「高度外傷センター」を設置しました。「アキュート・ケア・サージェリー」とは、外傷外科、救急外科、外科的集中治療の3つを外科の一領域として考えるアメリカ発の診療概念です。「アメリカでは、重症外傷は外科の中に位置づけられますが、日本では救急に位置づけられ、これは他の国からみると特殊なんです」と、渡部教授は話します。

  2000年の厚生労働省の調査によると、外傷を負い救命救急センターに搬送され死亡した人のうち、約40%は適切な治療で助かった可能性があったといいます。外傷診療に関する卒前教育の不足と治療体制が整っていないことも、この結果の要因になっていると渡部教授は言います。日本の救命救急センターは、初期診療は救命救急の医師が行い、診療結果によって専門の医師に治療を引き継ぐものです。「経済効率は良い反面、治療が開始されるまでに時間がかかりすぎます。そこで、即座にどの領域でも対応できる医師の養成と配置体制が必要となってくるのです」。

診療・教育・研究を柱に 外傷救急医療の底上げを

  この外傷診療の課題に、いち早く取り組んだのが島根大学でした。島根は人口対比でみると、外傷死の割合が多い県ですが、外傷患者を受け入れる体制がありませんでした。このような状況下で、全国で初めて医学部に診療・教育・研究の3つの柱を掲げたAcute Care Surgery講座を設置。2017年8月には高度外傷センター棟が完成しました。 

  「①患者さんの到着と同時に治療が開始できる体制であること、②センターにO型の血液を常時おくことで素早い輸血が可能であること、③あらゆる外傷に対応できるスタッフが集まっていること、この3つが大きな特長です」。また、設備面でも、日本に9台しかないハイブリッドERを導入し、患者さんを動かすことなく診療・治療が可能になりました。 

  大学教育の面では、2018年度から4年生でAcute Care Surgery講座のチュートリアル教育を開始。5年生では、シミュレータを使って外傷の初期診療の技術を修得、そして6年生では指導医がマンツーマンで担当し、実際の患者さんを相手によりリアリティのある実習を行います。「これは全国で島根大学だけ。島大の医学生はとても貴重な経験ができますよ」。 

  そんな講座の次のステップはドクターカーです。「自ら現場に出て行くことで、治療を開始する時間を少しでも早くすることが大切」と渡部教授は話します。「島根県は人口対比でみると重症患者数が多い県。救命率を向上し、限りなく0に近づける努力をしたいし、そういった技術を持つ人材を育てていきたいですね」。

  日本における外傷診療の最先端として、果敢な挑戦が続きます。