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「今後更に求められてくる精神科への期待に応えるために」

 

 精神科専門医の役割は、例えば、精神神経学会によると「…精神・身体・社会・倫理の各面を総合的に考慮しつつ、精神医学及び精神科医療の進歩に応じて、精神科医の態度・技能・知識を高め、優れた精神科医の養成と生涯に渡る相互研鑽を図ることにより、精神科医療・精神保健の向上と社会福祉に貢献し、もって国民の信頼にこたえること」とされており、精神科医療だけでなく社会全体の幅広い領域において役割を発揮することが求められている。実際、約6%の精神科医が病院や診療所以外の、例えば、介護老人保健施設、産業医、行政機関、保健衛生業務等で活躍している。
 平成19年に施行された改正医療法においては、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に並び精神疾患が医療計画制度のもとで医療連携体制を構築すべき疾患としてあげられており、精神科医療の重要性が示されている。実際、厚生労働省の患者調査によると平成11年から平成26年では、精神疾患患者数が204万人から392万人と約2倍増加しており、特に、認知症と気分障害の患者数が急増しており、地域医療及び外来精神科医療の充実の必要性は言うまでもない。また、発達障害、依存症(薬物だけでなく、ギャンブル障害、ネット依存、ゲーム障害など)といった、社会の変化に伴い新たな問題として対応が迫られている疾病も増えてきている。実際、自殺対策基本法、ギャンブル等依存症対策基本法、アルコール健康障害対策基本法、発達障害支援法が制定され、精神科医療を含めた総合的な対策が必要とされている。
 一方で、精神疾患患者数が増加してきたとはいえ、未だに精神障害による苦痛・生活障害を被りながらも精神科医療を含む支援を受けることができていない患者がまだ多くおり、これらのunmet needへの対応も急務となっており、精神科医の役割はさらに広がると予想される。医療の場面だけ見ても、精神科リエゾン、緩和ケア、認知症ケア、妊産婦ケア、産後うつ検診、救急医療での精神的な問題への対応(薬物中毒、自殺企図、自傷、心的外傷後ストレス障害など)や、サイコオンコロジーと言われるがんを患う患者の心理的・精神的負担の軽減まで、更に求められる領域が広がってきている。
 まだ、上記の拡大に伴い、臨床研修において精神科の研修が必須となっており、精神科における臨床研修医数は2倍以上に増え、また、医学部においてはモデル・コアカリキュラムの変更に伴い精神科との関連の大きい行動科学が重要な科目として追加されるなど、精神科医が担うべく教育業務の負担も急増している。
 さて、「医療従事者の受給に関する検討会 医師需給分科会第4次中間とりまとめ」(2019年3月22日)で出された資料「都道府県別診療科ごとの将来必要ない指数の見通し(暫定)」で示された必要な精神科医師数は、上記の背景とは大きく乖離しており、やはり暫定とせざるを得ない数値と考えられるが、日本専門医機構が都道府県別診療科ごとの専攻医のシーリングを示したことはまったくもって理解不能である。また、それに基づき日本精神神経学会が「専攻医募集に関する緊急声明(第2報)」の中で、2020年度専攻医募集が目前に迫っており、募集方針が定まらない状況下で専攻医に不利益が生じることはあってはならないと判断し、今年度に限り、やむを得ず機構のシーリングを受け入れることとした」と判断したことは残念極まりない気持ちとなる。
 今後、医学部を目指す高校生ら、現在医学部に在籍する学生、初期臨床研修医の皆様方においては、安易な「暫定」推定による必要医師数に惑わされることなく、その背景にある制約と正しい現状理解に基づき、今後さらに活躍が求められる精神科医を目指していただきたいと強く希望するし、ぜひとも我々の目指す社会福祉への貢献に一緒に頑張って下さる皆様を募集したいと強く考えています。また、現在、精神科の専攻医となって研鑽を積んでいる仲間についても、その後の社会への貢献について、一緒に努力していきたいと希望しています。