島根大学医学部附属病院は、国立大学病院としての社会的責務を果たすべく、「高度・先進医療の提供」「地域完結型医療の支援」「医学教育および研究の推進」という三本柱を掲げ、地域医療と大学病院機能の両立に取り組んでまいります。
1)医療DXを基盤とした遠隔医療・地域連携の高度化
本院では、厚生労働省「医療 DX 推進の工程表」に基づき、電子カルテ情報共有、遠隔モニタリング、オンライン診療などを含む地域医療情報プラットフォームの構築を進めています。特に中山間地域・離島部との医療連携では、診療データや画像を共有可能なクラウド基盤を通じて、地域完結型医療の後方支援病院としての機能を強化します。今後は、AIによる診断補助やトリアージ支援機能の実装、医療MaaS 連携による「アクセス困難地域」への包括的医療支援も展開してまいります。
2)小児高度急性期医療・移行期医療の拡充
本院は、全国的にも課題とされる小児専門医療人材の偏在に対応するため、重点的に小児科系専門診療体制の強化を進めてきました。2025 年度には、小児心臓血管外科・小児脳神経外科・小児集中治療を統合する「小児高度急性期医療ユニット計画」を更に充実化し、小児救命救急から手術・集中管理・退院後支援まで一貫した対応を可能とするハブ機能を整備いたします。また、NICU・GCU 出身児や医療的ケア児、思春期・若年成人(AYA)世代に対しては、疾患の遷延や慢性化を見越した移行期医療を本格的に推進しています。内科系診療科との多職種連携によって、小児・成人の切れ目のない長期支援体制を構築しており、地域の小児・家族支援政策とも連携しています。
3)専門診療科偏在への戦略的アプローチ
医師の高齢化や偏在化が強い県西部や隣接県境域では耳鼻咽喉科・頭頸部外科、形成外科、脳神経外科など特定診療科の深刻な偏在が続いています。この課題に対応すべく、本院では頭頸部・脳・顔面領域における多診療科横断的な診療体制を集約した「顔面・頭蓋底治療センター」を設置いたしました。本センターは、脳神経外科、形成外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、眼科、歯科口腔外科を中核に、腫瘍外科、放射線治療科、病理部との連携によって、頭頸部腫瘍、顔面外傷、機能再建、先天異常など多岐にわたる疾患群に対して集学的治療を実践しております。加えて、地域枠学生・専攻医への実践的な専門研修の場としても機能しており、地域医療人材の定着と診療科バランスの是正にも資すると考えています。
4)人材育成と持続可能な地域医療システムの確立
大学病院としての教育責任を果たすべく、総合診療医センター・病院医学教育センターを中心に、地域医療・へき地医療に従事する医師育成を推進しております。地域枠医師に対するキャリア支援、専攻医プログラムとの統合、遠隔指導プラットフォームの整備等を通じ、大学—地域間の「医師の循環型育成モデル」を実現しています。
5)医療従事者のWell-beingを基軸とした組織文化改革
医師の時間外労働規制(2024 年改正医療法附則)を受け、本院では多職種連携の強化および説明責任の勤務時間内実施を原則化しています。また、職場環境改善支援センターによるバイジング支援、リエゾン介入、相談体制の拡充によって、バーンアウト予防やチーム機能の最適化を目指しています。これらの取組は、医療安全文化の醸成、患者中心のケア提供、医療者のレジリエンス強化という多重の効果をもたらしており、大学病院としての社会的信頼確保の根幹と考えています。
6)地域還元型医療研究と未来医療技術の実装
再生医療センター、IKRA センター、感染症ワクチン開発拠点などを基盤に、先進的かつ地域適応型の医療研究を展開いたします。特に、地域特有の疫学的課題(高齢化・多病併存・医療資源制限)に対応した「臨床応用可能な技術開発」および「実装科学に基づくアウトカム評価」に注力しております。また、臨床研究中核病院としての体制整備も進めており、診療・研究の相互フィードバックを通じて、エビデンスに基づいた地域医療政策への貢献を目指します。
今後も本院は、厳しい財政状況下にあっても、社会的・倫理的責務を堅持しつつ、地域社会と共創する「地域統合型大学病院モデル」の確立をめざし、不断の改革に取り組んでまいります。地域に根ざし信頼される病院を実現するために、これからも努力を続けてまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
島根大学医学部附属病院長
島根大学理事(医療担当)