骨の治療薬でおこる顎の壊死の危険性

公開日 2010年10月05日

(平成22年10月5日:報道発表)

 日本ではたくさんの骨粗鬆症の患者さんがいます.骨粗鬆症は全身の骨がもろくなって,だんだん背中が曲がってくる病気です.そこで,骨の硬さを守り,もろくなって曲がらないようにするビスフォスフォネートというお薬が使われるようになり,たくさんの患者さんが救済されてきました.このお薬はあらゆる患者さんの骨を硬く守れるので,骨粗鬆症以外の骨の病気で悩む患者さんや,あるいは骨折の予防ために高齢者に広く使用されており,島根県でも年間に数万人の患者さんに処方されていると推測されます.

 しかし,最近になってビスフォスフォネートにより,顎の骨に強い炎症や壊死がおこってしまう副作用があることがわかってきました.ビスフォスフォネートによる顎骨の炎症や壊死は,激しい痛みや感染をともなう事があり,とても治療が難しい病気です.2006年に,日本で初めて行われた全国調査では,まだ30例ほどしか見つかりませんでしたが,その中の3例は島根県の方でした.しかしその後,副作用としての顎骨壊死が発生するまでの期間が経過したことや,処方数の急速な増加,そしてこの病気の認知度が高まるにつれ,たくさんの症例が報告されるようになりました.島根大学でも20例近くの患者さんを治療しています.この病気は,とても治療が難しいこともありますし,抜歯などの歯科治療を契機に発生することや,一端発症すると歯科治療が難しくなるので,患者さんの口腔の健康をおびやかしますし,歯科医院で治療が忌避されることもあり,大きな問題となりつつあります.島根大学では全国に先がけて,この病気の治療や予防法を提案し,県内や全国に発信しています.

 ビスフォスフォネートによる顎骨壊死の予防には,日常のお口の手入れが重要です.また,ビスフォスフォネートを使用し始めると,抜歯などの歯科治療が困難になることもあるので,一番重要なのは,ビスフォスフォネート使用開始前に,できる限りの歯科治療をすませておくことです.そのためには,処方する医師と口腔をケアする歯科医師が,患者さんを中心に見据えて連携していくことが,極めて重要です.また,患者さん自身ももちろんですが,健康な方にも,広くこの病気を知っていただく必要があります.島根大学は様々な方法で県内外に広報していますが,その一貫としてニュースや新聞報道で介助して頂き,この病気に対する一般の方や,医師,歯科医師の認知度を向上していくことができれば,たくさんの方の健康を増進できると考えています.

あごの骨に発生した壊死