世界初!「卵巣明細胞腺癌」の癌抑制遺伝子を発見

公開日 2010年10月25日

(平成22年10月25日:報道発表)

産科婦人科 中山健太郎、宮崎康二

卵巣癌は早期発見が難しく、症状がみられた時点では進行癌の場合がほとんどである。そのため「サイレントキラー」と言われ、婦人科悪性腫瘍では最も治療が困難である。本邦での卵巣癌における明細胞腺癌の発生頻度は卵巣がん全体の25%で欧米の8%と比べて極めて高く、人種間で発生頻度に差があると考えられている。卵巣明細胞腺癌は白金製剤を主体とする現在の化学療法に抵抗性で極めて予後不良であり、特に本邦において急速に増加傾向にある事(30年間で約5倍に増加)が問題となっている。卵巣明細胞腺癌の分子生物学的特徴は、ほとんど解明されておらず、分子標的薬剤開発の糸口さえつかめていない。卵巣明細胞腺癌の治療成績を向上させるためには卵巣明細胞腺癌の分子生物学的特徴を解明し、その特徴にターゲットを絞った創薬が必要と考えられている。

島根大学医学部附属病院産科婦人科の中山健太郎講師らと米国のジョンズホプキンス大学の共同研究チームは,卵巣がんの中でも日本人の発生頻度が高く抗癌剤がほとんど効かない「卵巣明細胞腺癌」の発癌抑制に働く特定の遺伝子を,世界で初めて発見したと10月25日記者発表した。これまでに産科婦人科の宮崎教授らと島根大学医学部附属病院で約10例の手術後の癌組織片から癌細胞を培養し遺伝子を抽出後、遺伝子解析を進めてきた。日米で合計約50例のExomic sequence解析の結果,卵巣明細胞腺癌に限り「ARID1A」と呼ばれる遺伝子が高い確率(約6割)で突然変異し,がん化を抑制する機能を失っていたことから,研究グループは新たな癌抑制遺伝子であることを突き止めた。

これまで卵巣明細胞腺癌発症のメカニズムは解明されておらず有効な治療法も存在しない中,この遺伝子の機能を回復する抗がん剤を開発できれば、有効な治療法となると期待される。この研究成果は,10月8日付けの米科学誌「サイエンス」に掲載されている。

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