先進医療「人工括約筋を用いた尿失禁手術」

公開日 2010年10月01日

(平成22年10月:最新治療) 

泌尿器科 安本 博晃、井川 幹夫

 高齢化社会、食生活の欧米化、診断法の進歩とともに、早期前立腺癌と診断される患者は増加傾向にあります。早期前立腺癌の標準的な治療の一つである、前立腺全摘術の実施件数は、2004年には全国で1年間に1万6千件に達し、その後も増加の一途をたどっているとされています。

 これまで前立腺癌の外科的治療にとって“術後尿失禁”は大きな課題でした。骨盤内解剖の詳細な解明に伴い、神経血管束を温存し、尿道括約筋損傷を最小限に抑える術式の改良が行われ、術後1年以内に排尿機能は9割方回復するようになった現在でも、紙オムツを手放せない重度の尿失禁が1-3%程度生じるとされています。

図:人工尿道括約筋AMS800

  人工尿道括約筋AMS800の埋込術は尿道括約筋障害による重度の尿失禁に対する唯一の根治的治療であり、米国では広く普及しています。人工括約筋は尿道の周りにシリコン製のカフを巻き付けその中に液体を充填することで尿道を圧迫し、失禁を保ちます。排尿の際にカフ内の液体を抜くためのコントロールポンプは陰嚢内に、液体を貯留するバルーンは下腹部に、それぞれ埋め込みます。手術は全身麻酔下に行い、3-4時間程度を要します。入院期間は7日間程度です。設置した人工括約筋を実際に作動させるのは約6週間後となります。

 本邦ではあまり普及していませんでしたが、当科は国内ではいち早く2001年から本治療を導入し、その有用性を報告してきました。そして、このたび先進医療施設として承認されました。約160万円の自己負担が必要となりますが、比較的安全で、患者さんの満足度の高い治療法であり、今後、広く普及することが期待されます。

 適応は前立腺全摘術のほか、前立腺肥大症手術、新膀胱造設術(膀胱全摘)の術後を含む尿道括約筋不全による尿失禁で、適応禁忌は治療困難な尿路閉塞、尿路感染、排尿筋過活動、進行性の神経疾患などです。

 現在、国内での先進医療認定施設は当院を含め6施設(福岡市原三信病院、東北大学病院、北海道大学病院、北里大学病院、国立がんセンター中央病院)のみです。