公開日 2006年12月01日
(平成18年12月:最新治療)
泌尿器科 井川 幹夫・浦上 慎司・洲村 正裕
前立腺肥大症とは、良性の腫大した前立腺により膀胱の出口部・尿道が圧迫され、排尿困難、尿閉、頻尿 や尿失禁を呈する疾患です。現在、このような症状を 有する患者さんに対しては、薬物療法が第一選択と なっていますが、この薬物療法が無効な患者さんでは、生活の質が著しく低下します。このような患者さんに対しては、経尿道的前立腺切除術が一般的ですが、出血など侵襲が大きいため手術療法を躊躇される方が少なくありません。
ボトックスRは眼瞼・片側顔面痙攣、痙性斜頚の治療薬としては保険承認されています。泌尿器科領域では、排尿に関わる筋肉の過敏性を抑え、前立腺の大きさの減少や前立腺部の尿道の弛緩作用を有することが最近分かってきました。このボトックスRの前立腺内注入療法は、2003年に最初に報告されました。治療2ヵ月後には9割近くの患者さんに排尿症状の改善を認め、効果は一年後も持続していました。2005年には排尿症状および排尿機能の改善効果および前立腺縮小効果が再確認され、欧米を中心にその有効性が報告されてきています。これまでどんな重篤な合併症も報告されていません。
薬物療法が無効ですが、内視鏡手術が必ずしも適応でない前立腺肥大症の患者さんに対して、当科では、ボトックスR前立腺内注入療法を2006年12月に開始いたしました。通常2-3泊の入院で、手術室にて腰椎麻酔下に、直腸に挿入した超音波にて確認しながら、細い針を用いてボトックスRを会陰から前立腺に注入する方法で行います。治療時間も15分程度です。本治療は本学の「医の倫理委員会」の承認を得ております。これまで当科にて本治療を施行した12例のほとんどの患者さんで自覚症状の改善を認め、合併症もまったく認めておりません。したがって、ボトックスR前立腺内注入療法は、前立腺肥大症に対する安全で有効な低侵襲治療であると考えております。またわれわれは、ボトックスR前立腺内注入療法前後で経直腸的超音波を用いた組織弾性イメージング(real-time tissue elastography)にて前立腺の組織弾性(硬度)を測定し、排尿症状および排尿機能の改善効果との因果関係を検討し(図)、ボトックスR注入後には前立腺の硬度は明らかに低下しており、排尿症状および排尿機能の改善効果との相関を認めています。