島根大学医学部附属病院

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体も心も元気を維持するために無理をしないで運動不足解消

島根県は車社会で歩く機会が少なく、生活の中での運動量が不十分になりがちです。
冬は「寒いから」「天気が悪いから」と家に閉じこもり、ますます運動不足に。
リハビリテーション部の理学療法士・江草さんと平野さんに、運動不足が招くリスクと、解消のための考え方について伺いました。

 

筋肉量の維持は心身の健康に直結

 体を動かさないと筋肉はどんどん落ちていきます。筋肉量のピークは20代。その後徐々に低下していき、何もしていないと下がり幅は年齢を重ねるほどに大きくなります。
 「サルコペニア」という言葉をよく耳にするようになりました。日本語にすると「筋肉減少症」で、文字通り筋肉が減り身体機能が低下した状態。誰にでも起こるもので、生活習慣病や循環器の病気などが起こりやすくなると考えられています。
 筋肉が減ると歩行速度が下がり、疲れやすく、ちょっと出かけるのもおっくうに。出かけないようになるとさらに活動量が減り、何もないところで転びやすくなります。一度転倒すると「また転ぶかもしれない」と不安になって動かなくなり、もっと衰え、また転んで……と負のスパイラルに。これを転倒後症候群と言います。体力低下が先か自信をなくすのが先かという議論もありますが、うつのリスクも高まる傾向にあるようです。

 

健康のキーワードは
「ちょい足し運動」

 「健康のために運動をするぞ」と意気込んで早々に挫折するというのはよくあるパターン。つらくなるのはまとめて一度に運動しようとするからです。よく「20分以上運動しないとやせない」という言説や、エクササイズの紹介で「●回以上やらないと効果がない」という言い方を聞きますが、それらは実は正しくないと分かってきています。
 しっかり時間を取って走ったり筋トレしたりするのは素晴らしいことですが、継続的な健康維持のためには、日常の中で少しずつ体を動かす方が有効。毎日の生活の中で継続できる無理のない運動を少しずつプラスしていくことをオススメします。「ちょい足し運動」の考え方でコツコツやっていきましょう。簡単にできるものをいくつか紹介するので、ぜひやってみてください。

https://www.med.shimane-u.ac.jp/_files/00191074/79_undobusoku_02.webp

 

生活の中で意識しよう!
「+10/BK30」(プラス・テン/ブレイク・サーティー)」

 厚生労働省は、WHOの「身体活動・座位活動ガイドライン」を基に、「+10/BK30」を推奨しています。具体的には「今より10分多く体を動かそう」「30分以上動かない状態をやめよう」など、年齢に応じた目標が設定されています。
 座っている時間「座位行動時間」が長いと健康上のリスクが高まり、2時間を超えると死亡率が15%上昇するという説も。
 こまめに立ち上がることを習慣化するだけで、健康増進効果があります。デスクワークや読書、動画視聴などをする際は、30分ごとに立って軽く体を動かしましょう。掃除や片付けなどを行うだけでも良いですね。
 10分の運動は「ちょい足し運動」の考えで無理せずできるものを取り入れていきましょう。例えばウォーキング。10分歩くと、これだけで生活習慣病の予防や筋肉をつけるのに有効です。運動に加え、家事などの身体活動も「+10」に含まれます。

 

生活にプラスしてコツコツ

かんたん!ちょい足し運動

★腰や膝が痛くならない範囲で行いましょう
★回数や時間にこだわらず、体調に合わせて行いましょう
★無理せず、少しずつ回数を増やしていきましょう

このような筋トレに、ウォーキングなどの軽い有酸素運動をプラスできるとベストです。
「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました」が息継ぎなしで言えるぐらいがちょうど良い運動量です。

Column
筋トレだけじゃなくストレッチも
冬場は筋肉が強張りやすいので、ストレッチで体を緩めましょう。ストレッチの目的は痛みの予防と可動域の維持。肩凝りや腰痛の対策にもなるので、意識して関節をのばすようにしてください。また、筋肉は動かした範囲が大きいほど成長するもの。体の可動域を広げると筋トレの効果が上がります。

 

運動するとき、これに注意!

起きてすぐにハードワークはNG

朝起きたばかりの体は脱水・低栄養状態になっています。体の中に筋肉になる材料がないので、ランニングや負荷の高い筋トレのような激しい運動には向きません。ストレッチやラジオ体操、ヨガなど穏やかな運動がちょうど良いです。しっかり体を動かしたい場合は、水分を取って軽く食べ物をお腹に入れましょう。簡単に済ませるならプロテイン飲料や栄養補助食品でも良いですね。ちゃんと朝ごはんを食べるなら、栄養素と水分が吸収された食後1時間ぐらいにスタートを。

冬場に気をつけたいこと

ヒートショック

冬場は室内と室外の気温差が激しく、血圧が不安定に。急に薄着で外に出て血圧が上がると、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まって危険です。

水分補給

気温が下がると意識して水分を摂らなくなります。夏ほど大量ではありませんが冬も動けば汗をかき、呼気からも水分が失われます。必ず水分補給をしてください。

寝る前の運動

冬は生活リズムが夜型に移行する傾向に。ランニングや負荷の高い筋トレなどを就寝前にすると寝つきが悪くなるので布団に入る2時間前までにしておきましょう。

 

Column
筋肉は裏切る?
よく「筋肉は裏切らない」と言われますが、運動しないと筋肉はすぐに減少します。裏切って筋肉を逃してしまっているのは人間の方なのです。その一方で、何歳からでもどんなタイミングでも鍛えられるという面もあります。また、筋肉の細胞は鍛えた経験を覚えていて、多少落ちても元に戻しやすいということがわかっています。島大病院では、手術や抗がん剤治療などを控えた患者さんに事前に運動してもらうことがあります。

 

リハビリテーション部 療法士長
江草 典政

広島県立保健福祉大学(現:県立広島大学)を2005年に卒業。同年、島大病院リハビリテーション部に入職。専門は難治性疼痛のリハビリテーション・組織開発・コーチング。一般社団法人島根県理学療法士会副会長、日本理学療法士協会の関連委員を務め、リハビリテーション専門職の育成に取り組んでいる。

リハビリテーション部 理学療法士
平野 瑛士

YMCA米子医療福祉専門学校を2022年に卒業。同年に島大病院リハビリテーション部に入職。翌年から島根大学大学院人間社会科学研究科健康・行動科学コースに入学、現在在学中。研究テーマは、睡眠の規則性や生活習慣について。臨床業務では精神疾患をはじめ幅広い疾患の診療を担当している。


しろうさぎ79号より(2025年1月発行)

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