肥満は単なる体型の変化ではなく、さまざまな代謝異常や将来の健康リスクにつながる重要な課題です。
今回は、肥満の原因や予防について、内分泌代謝内科の野津雅和先生と四方田美和子先生にお話を伺いました。
皆さんは、自分の適正体重をご存知ですか?「肥満」は健康に良くないとなんとなく分かっていても、どこからが肥満なのか、なぜ良くないのかを詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
「肥満」とは、体に脂肪が過剰に蓄積し、BMIが25を超えた状態を指します。肥満には「皮下脂肪型肥満」と「内臓脂肪型肥満」の2種類があり、特に内臓の周りに脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満は、健康リスクを高めることが分かっています。ただし、肥満=病気というわけではありません。肥満が原因で健康を脅かす合併症を発症したり、将来合併症を引き起こすリスクが高いと判断された場合に初めて「肥満症」と診断され、治療の対象となります。肥満かどうかは自分で測定できますが、肥満症の診断には専門機関での検査が必要です。
「肥満症」と診断されるのは、BMIが25以上で、さらに高血糖、脂質異常症、高血圧など肥満による11種の健康障害が1つ以上ある方か、腹囲が基準値以上の内臓脂肪型肥満の方です。
肥満は、このほかにも悪性疾患(大腸がん、肝臓がんなど)、胆石症、静脈血栓症・肺塞栓症、気管支喘息、皮膚疾患、男性不妊、胃食道逆流症、精神疾患などにも関連すると言われ、肥満によってリスクが高まることが知られています。反対に、何らかの疾患が肥満を引き起こしている場合もあるため、まずは自分の肥満の原因を正しく知ることが大切です。
BMIが25以下でも安心はできません。見た目は痩せていても、実は内臓脂肪が多いケースもあるのです。「自分は太っていないから大丈夫」と思い込まず、定期的に健康診断を受け、肥満の有無や健康状態をチェックする習慣をつけましょう。
肥満の原因には、食べ過ぎや運動不足といった生活習慣のほか、体質的な要因や社会的要因など、さまざまなものがあります。しかし、一般的には生活習慣の問題として捉えられることが多く、「自己管理能力が低い」といった肥満に対する偏見(オベシティ・スティグマ)が存在します。その結果、「肥満は自分の責任であり、医療の対象ではない」と思い込み、適切な対処を受ける機会を逃してしまうことがあります。現代の生活環境には、肥満を引き起こす要因が多く、本人の意志や努力では避けられないものも少なくありません。不本意に体重が増加してしまった場合は、まずその原因を考えることが重要です。
減量治療の基本は、まず食生活や運動習慣などのライフスタイルを見直すことです。医師や保健師、管理栄養士などの専門職の指導のもと、患者さん一人ひとりに合った方法で進めていきます。食事療法や運動療法で十分な効果が得られない場合は、医師の判断により、薬物療法や胃の一部を切除する外科手術を検討することもあります。(※当院では、現時点で外科手術による肥満症治療は行っておりません。)なお、薬物療法や外科手術は、医学的に必要と判断された場合にのみ実施されます。「痩せたい」という理由だけでは適用されません。
2024年2月、肥満症治療薬「ウゴービ®」という新薬が発売されました。当院は、県内で唯一ウゴービ®の処方が可能な施設として認定されています。(2024年7月時点)
ウゴービ®は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない場合で、次の条件を満たす方が使用可能です。
当院では、内分泌代謝内科専門医や管理栄養士などが、肥満の原因や関連する健康障害の状況を確認し、最適な治療を提案しています。
適度な運動習慣やバランスの取れた食生活は、肥満予防に効果的です。しかし、「1日8,000歩のウォーキング」「定期的なジム通い」「決まった時間に栄養バランスの良い食事をとる」といった理想は分かっていても、実際には続けるのが難しいもの。そこで今回は、無理なく気軽に取り組める方法をご提案します。リバウンドを防ぐには、「短期間で頑張る」のではなく、「自然に続けられる生活習慣」を作ることが何より大切です。
出雲市出身。2007年山口大学医学部卒業、2021年より現職。肥満症の原因となる内分泌疾患や、肥満症により発症する代謝疾患の診療が専門。希少疾患を含め、全ての内分泌代謝疾患を県内で対応できる体制を目指す。
大阪市出身。2016年島根大学医学部卒業。2022年より当院で勤務、同年より同大学院にも所属。専門分野は内分泌代謝内科領域全般。
しろうさぎ80号より(2025年4月発行)