集中治療部は、重大な病気や事故などによって命の危険がある患者さんを24時間体制で見守り、集中的な治療を行う専門部署です。命を守る最前線では、どのような医療が行われているのでしょうか。集中治療部部長の二階教授に、チーム医療体制や患者さんへの思いなどを伺いました。
集中治療部の役割は、患者さんを危機的な状況から救い、次の治療や回復へと繋げることです。当院のICU病床数は12床(うち6床が個室)で、主に高難度な手術を終えられた方、救急搬送された方、一般病棟で状態が急変された方などを受け入れており、2025年度には年間約1,050人の治療を行いました。
患者さんのベッドの周りには、人工呼吸器や生体情報モニターなどさまざまな医療機器を配置し、24時間絶え間なく状態を見守っています。また、当院の一般病棟では患者さん7人に対して看護師1人程度で対応しますが、ICUでは患者さん2人に対して1人以上の看護師が対応することが義務づけられています。患者さんに少しでも異常があれば、医療スタッフが速やかに必要な処置を行います。患者さん一人ひとりに寄り添い、苦痛をできるだけ和らげ、安全で質の高い集中治療を提供しています。
集中治療部では、24時間体制で患者さんを診るために、専門の集中治療医が交代で常駐しています。治療は各専門診療科の「主治医」と「集中治療医」が連携し、主治医が病気の専門治療を、集中治療医が全身状態の管理を担います。
そして、患者さんが危機的な状況を乗り越えるためには、多職種が連携する「チーム医療」が欠かせません。当院の集中治療部では主に7つの専門職が関わり、それぞれの専門性を生かし一丸となって患者さんを支えています。
毎朝の多職種カンファレンスでは、医師や看護師、リハビリスタッフ、薬剤師らが患者さん一人ひとりの状態を総合的に評価し、回復目標の達成に向けて今必要な治療やケアを検討し、最適な方針をチーム全員で話し合っています。




集中治療の目的は、「命を救うこと」だけではありません。目指すべきゴールは、患者さんが元の生活を取り戻し、社会や家庭へ復帰できることです。しかし近年、命の危機を乗り越えた後も身体や認知機能、心の面に障害が残る「PICS(集中治療後症候群)」が大きな課題となっています。
PICSの症状は主に3つ。筋力や体力が低下する「運動機能障害」、記憶力や注意力、集中力などが低下する「認知機能障害」、不安や抑うつ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などが現れる「精神機能障害」です。病気そのものが治っても、これらの影響によって自宅での生活や仕事への復帰が難しくなることがあります。また、患者さんだけでなく、ご家族が強いストレスから心身の不調を抱える「PICS‐F(ファミリー)」という4つ目の問題も注目されています。
そのため当院では、病気を治療するだけでなく、「元の生活へ戻ること」を見据えた支援にも力を入れています。集中治療部入院後の早い段階からリハビリを開始するほか、一般病棟へ移った後も理学療法士などの多職種が継続して関わり、週2回の病棟訪問を通じて、回復状況やPICSの有無を確認。患者さんが安心して退院し、その後の生活へつながるようサポートを行っています。





私たちが何より大切にしているのは、「患者さんを中心とした医療」です。重症患者さんの治療は、時に長く険しい道のりになることもあります。しかし、患者さんを決して一人にはしません。集中治療医や看護師をはじめ、多くの専門スタッフが力を合わせ、24時間体制で回復を支えています。
また、命に関わる大きな病気やけがに直面すると、不安や精神的な負担を抱えるのは患者さんだけではありません。そばで見守るご家族もまた、ストレスや不安、悩みを抱えることがあります。そのため当院では、ご家族への支援も集中治療部の重要な役割だと考えています。医療ソーシャルワーカーによる経済面や退院後の生活に関する相談支援をはじめ、必要に応じて精神科などの専門スタッフとも連携し、ご家族が安心して治療に向き合える環境づくりに努めています。
病気を発症したその瞬間から、治療を終え、元の暮らしへ戻られるその日まで。私たちは患者さんとご家族に寄り添いながら、ただ命を救うだけでなく、その人らしい毎日を取り戻せるよう、これからも全力で支え続けます。



1994年長崎大学医学部卒業。
島根大学医学部附属病院麻酔科、集中治療部准教授、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校解剖学部などを経て、2023年から現職。集中治療専門医、麻酔科専門医・指導医。専門は麻酔科学、集中治療医学。疼痛機序に関わる基礎的研究、敗血症、シミュレーション教育、人工呼吸管理やチーム医療の研究にも力を注ぐ。
しろうさぎ84号より(2026年8月発行)